T.B.N.ゲスト出演・庵野監督の言葉全文


『林原めぐみの東京ヴギーナイト』
TBSラジオ[954kHz]・土曜日深夜25:00〜25:30他

96年4月14日放送分

林原めぐみさん(以下M)さて、お待たせいたしました。波乱に波乱をよんだエヴァンゲリオン。ねぇ、あの放送のほうは終わってしまったんですけれども、その監督、庵野秀明監督が今週から3夜連続エヴァンゲリオン特集ということで遊びに来てくださいました。どうも。
庵野監督(以下A):どうも、今晩は。
Mよろしくおねがいします。
A:お久しぶりです。
Mお久しぶりですねぇ。
A:ご無沙汰してますね。
Mご無沙汰ですねぇ。もう、すげーですよ葉書がいろいろと。
A:ああ、みたいですね。
M皆さん、困惑しているようで。
A:ハハハ・・・
Mヘヘヘ・・・大変。でね、まず一番多かったのが、これ代表して読みましょう北海道の****君
まず第一にエヴァンゲリオンって本当にあれで終了ですか。私の周りでは…(以下省略させていただきます)』OVAになるんですかとか、いろいろ来ています。
A:ああ来てますね。
Mあれで終わりでないと皆さん思っているという状況ですね。テレビシリーズが。
A:んん。
Mそして…。
A:一応、OVAという形ではないんですけど、えっとですね、25話と26話に関してはカップリングと言うのかな、2枚組みになる予定なんですよ。だから、最初につくってたシナリオのヴァージョンのやつは、これから作るんですけど、それとあとテレビでオンエアされたヴァージョンと、これが二つ付いて25話と26話になるという、そういう形になると思うっス。
Mで、25話が二つあるってこと。
A:そそそ、マルチエンディングね。
Mじゃあ、にじゅう…。ああ、マルチエンディング。24話からエンディングが分岐するんだ。
A:そそそ。
M二つある。
A:二つあんの。
Mあらあら。二つ、エンディング。
A:うん。
Mでも、それっていうのは一種のなんでしょうね、パラドックスっていうのも変ですけれども、ほら、よく今自分が生きているところと全然別なところで、また自分が生きていて別のエンディングがあったりとかするじゃないですか。
A:そうそう
Mゲームで言えば、あのシュミレーションゲームって言うんだっけ、何だっけ、あの自分がエンディングがやって行くうちに変わっていく。
A:そそそ、マルチエンディングってやつね。
Mこの道を通ったからこっちにいった。この道を通ったからこっちにいった。ってエンディングが変わっていく。そいうことなんだ。
A:えっとね。エヴァンゲリオンっていうのは、僕のライブなんですよ。ライブ感覚で作ったやつだから、今思っていること、今感じていること、今の気分っていうのをフィルムに定着していこうってのが最初のテーマていうか僕の中でのテーマだったのね。
Mうんうん。
A:それは、正直にできるだけやっていこうと。まあ中には、一般論とか、他の人の意見とか、こうしなきゃいけないという、いけないという…あの…。
M制約?
A:そう。そういうのもあるんだけど、あとは自分のモラルに従って物事作っていく。要するに、あの、自分じゃない部分ていうのは全部排除するっていうのが最初にあったんですよ。
Mはあはあはあ。
A:最終回はああいう形にテレビの方はなっちゃったけど、まあそれで一回終わって、もう一回作り直す。ま、作り直すってのも変なんだけど最初にあがってたシナリオに戻すだけなんだけど、それをやるときにまた、今のシナリオ、またたぶん書き直したと思うんだけど、今の気分というのがそのまま反映されるのね。だから、もう2ヵ月か3ヵ月たったときの気分っていうので、エヴァンゲリオンのラストを考えるとどうなろう。どうだろう。というのが。それがビデオの時に一緒に付いてくるってわけですね。
Mその気分というのは、そんな急激に変わるものでないんですか、それとも変わるんですか。庵野さんの場合って。
A:いやー。
Mほんっとにあるものっていうのは変わらないでしょうね。
A:変わらないんだろうね。でもね、思っているものとか、見たいものとか、考えているもの、っていうのは変わると思うんですよ。
Mああ、そうですか。あと方法が変わってくるかもしれないですよね。
A:そうそうそう。
Mたとえば、簡単な話だけど林檎がありますとしたら、これを例えば「おいしい」と表現する、「赤い」と表現する、「熟れてる」と表現するいろんな、こう、一つのものを表現するのにも、いろんな形があるじゃない。
A:そうそう、角度が違う。
M最終的に林檎を言いたくても。あの、言い方や表現の仕方や伝え方が違ってくると、受けて側も変わってきますもんね。
A:うーん。まあ、テレビの25、26話に関しては、なんて言うかな。うーんとね。まあ、諸般の事情ていうのが一番手っ取り早いんだけど。
Mああ、ありつつ。そして庵野さんのなかでの、あのライブな自分というのをビデオで流して行きたいという感じなんですね。
A:そうそう、もう一回、時をおいてできるんだったら、そん時の気分ていうのが新たな25、26にもでるでしょう。ただ、今あるあれを、あれは今の気分だから、否定する気持ちはまるでないんすよ。
Mうんうんうん。という感じなんでですね、曲が流れてきました。5月22日発売『Neon Genesis Evangelion III』のなかから高橋陽子さん「幸せの罪のにおい」聞いてください。

--- 曲 ---

Mまあ、要するにエンディングが二つできたと言うことなんですけれども。
A:はい、そうっスね。
Mうん、まあ、諸般の事情というのは制約的なことだったりするんですかね。
A:うーん。こういうのは、もう一切しゃべらないか、もうばーっと言い訳としてしゃべってしまうか、どっちかなんですけど。だまってるとね、なんかこのままなんか落ち着いてつまんなくなるんで、せっかく半ばわざとああいうふうにしているわけだから、なんかこのまま止まってしまうのつまんないなと思うんで、ばぁーと色々しゃべっちゃいます。
Mうえぇ!?ああ、そうですか。
A:うん。
Mまあ、あのあんまり問題のないように。
A:ああ、そうだね。
Mヘヘヘ・・・。うん、でも、ばぁーとしゃべっちゃいますと言わなくても、まあ、全部全部細かいこと言わなくても、やはりその、ほら、アニメーションとい媒体であるとか、それから放送の時間であるとか、そういうことを考えたりとかしたときにも、制約ということが、やはり世の中にはあるわけじゃないですか。
A:まあ、あるっスね。
Mそれで、うーんとなんて言うのかな。済むことっていうことでもないのかしらねぇ。
A:いや、やるだけのことはやっていて、とにかくどこまでできるか、やってみようってのがあったんですよ。テレビシリーズのアニメーションというカテゴリーから考えたら、とてもできないことだったのね。この企画自体が。そっからもうスタートしたときに崩壊はみえてるんですよ。始めたときに、もう成功とか、失敗とかそういうのはなくって、どこまでできるだろうというのがスタート地点だったのね。
M自己へ、自己なり、あの社会なりの。
A:どこまで自分達ができるのだろう。そういうことでスタートしているから、26本、1本も落とさずにできたってのは、まず快挙というか奇蹟に近いね。それが、ストーリーをもった、あの本来の形で24本まで続けられたっていうのも、これも奇蹟に近いんですよ。これも、それだけでオッケーなんですよ。1話と2話が出たときに、もうもうこれでいいと思ったから、あとは他の5話とか、要するに7話とか8話とか、そういう僕のなかで、「ああ良くできている」というのがどんどんどんどん増えていって、それが24本まで出来ているっていうのはすごいし、25、26は僕にとってはオッケーなんですよ。十二分にオッケーなんですよ。
Mうんうんうん。でも、これだけあの、あのある意味でオリコンでね、なんて言うのLDが1位になっちゃったりとか、すごいあの数字を残したりとか、結果が出ているっていうことは、そういうものを待っていた人達とか、望んでいた人達っていうのが、やはり居たということですね。
A:アニメファンにね、今一番足りないのは、僕、プライドだと思うんですよ。
Mふぉえ、はあ、はあはあはあ。
Aアニメファンていうのは、不安材料でしか生きていない人だから、とにかく自分のなかにものが欠けているんだけど、何が欠けているのか全然自分でわかってないんですよ。
Mほえぇぇーーー。はあはあはあ。
A:だから、救いを求めてアニメーションに逃げ込んでいるんだよね。アニメ見ている間は、自分は安心できるから、とにかく安心したい。
Mそれはシンジ君なのかしら。
A:いや、まあ、他の人にもあると思うんですよ、それを女に逃げるとか、サッカーに逃げるとか、野球に逃げるとか、逃げる先は色々あるんだけど。そのなかで、一番アニメーションっていう、なんて言うのかなぁ、母親のお腹の中に近いようなもの。なんかそういうものを選んでいるわけなんだよね。まあ、そのぶん、心が、心が弱いというのは変な言い方かもしれないけど、そういう人達なんですよ。
Mそうですか。はあはあ。
A:その中で、僕がやったのは、最後の26話は、自分の言葉というよりも一般論に近いんだけど、26っていうのは君達が、要するに本来見たい予定調和的な終わり方じゃなくって、それはたぶん大多数のひとが見たかったものだと思うんだけど。じゃなくって、あれに対する僕のメッセージっていうのは、なんて言うのかな、君らが見たいものじゃなくて、君らに必要なのはこれなんだよというのが、ラストなんすよ。
Mそれは、逆に言っていることは、なんて言うのかしら、驚かされるようなことなんですけど、一つの優しさですね。私はそう…。
A:いやわかんない、突き放したところで…
Mいや、でも、突き放したところで、初めてあの動物ってさ、動物っていうかなんて言うのキリンでもさ何でも立つわけじゃない。突き放すっていうのも、愛の形であり、優しさであると思うね。
A:だからね、アニメに逃げ込んでいるわけじゃなくて現実に帰れ。というのが最後なんですね。まあ、ものすごくコアな人からすれば、なんていうのかな、余計なお世話なんだから、そういう人はすごく怒ると思うんだよね。余計なお世話だ!ってね。
Mいえいえ。そんな。
A:でも、どうしようかなぁ。と思っている人は、一度現実に立ち返って見るのも良いかと思うんですけどね。
Mなんか濃い3週になりそう。

---- Ending ----

Mさーてこの3週ついてこい。来週も庵野監督をお招きしてですね、新世紀エヴァンゲリオンについてと申しましょうか、庵野さんの生き方といいましょうか、いろんなことをお聞きしたいと思います。庵野さん宛の手紙も待ってます。
A:待ってます。
Mもちろんエヴァ関係もですよ。
A:はい。


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綾瀬ヒロ (H.Ayase)
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