今年も猛暑だった。しかし高校生の夏は忙しい。 特に父親がちょっとアレな研究者で、バイト代をはずむから実験を手伝って欲しいと言われてしまったら──と、少女は思った。 「しっかし、参ったな……」 少女の身体から、ほんのりと湯気が立っている。どうも『少女』は、シャワーを浴びた直後だったらしい。 何で俺が、セーラー服を・・・。 少女はクローゼットに掛かった上着を、上目づかいでじっと見ている。ついでに、バスタオルをぐっと握りしめている。混乱していた。 「オレ、ブレザーの方が好みなんだけどな」 何をつぶやいているんだと、少女は思った。頭に血が上って、顔が熱くなっているのが分かる。 「ちょっと、何してるの? 和美ちゃんずっと待ってるわよ」 一階から母が大声を出した。思わず少女はぶるっと震えた。クーラーの効いた部屋にいるせいで、身体の方は冷えていたらしい。 でも顔の方は、ますます火照ってきていた。 「ゴメン。も、もう少しだけ、待っ……て」 口から出た声が10セントくらい周波数が高いぜ、と少女は思った。 そんな考えを打ち消すように、首を左右に振った。セーラー服に近づこうとして、おそるおそる足を踏み出す。 その時突然、柔らかい感触に気がついた。それは、バスタオルを握りしめた手の甲──。 ほとんど偶然みたいに、下の方に目線が行った。そこには、当然というべきか、豊かな膨らみがあった。 「わっ………………!」 思わずバスタオルを落としてしまう少女。 * * * どうにか着替えを終え、少女は父親の車の中にいた。もう一人の女の子が、助手席から身を乗り出して話しかけてきた。 「ほんと、大丈夫? まだ顔が赤いじゃん」 ほとんど金髪に近いくらいブリーチをかけて、日焼けしている女の子だ。『少女』と同じくらいの歳らしい。 「え、ええ」 バックミラーをちらりと見て、少女の父親が話しかける。 「まあ、今日は見学だから、ゆっくり見ていけ」 どうも研究の進み具合にずれが出ているのか、と少女は思った。でも落ち着いて考えられるような状態ではなかった。後ろの座席に縮こまって座る。 「そういえば和美さんは、こういった研究に興味があるのですか?」 「ワタシ、これでも数学が得意なんですよ。一度、叔父さんの研究室を見てみたいと思ってたんでー」 金髪の女の子、和美がにこにこと笑って答えた。 彼女は永いこと会っていなかった「いとこ」らしいが、少女は該当する人物が誰か分からなかった。 「それは頼もしい。いつでも、この研究都市に遊びに来てくださいね」 大学の構内を進んでいた車は、敷地のはずれにある新しくて大きな建物の前で止まった。 少女達は研究所の建物の中を案内された。大きな部屋の一つで、少女の父が説明する。 「これが、僕が今研究している機械です。人間の意識だけを、別次元の人の意識と入れ替えることが出来ますよ」 部屋には、なんだか分からない電子基板のようなものが雑然と散らばっていた。それらの間が、幾重にも光ファイバーケーブルで結ばれている。 和美は、目が輝かせて、なんだか分からない装備を見ていた。 「スゴイじゃん。コレ、50万量子ビットが一度に計算出来るコンピューターじゃん」 「ええ、単一電子ビット素子で50万量子フロップス……55万かな。それを纏めたものを2台使ってますね」 和美と少女の父は楽しそうに話し込んでいた。 「でも、なんでこんなんで別の世界に行けるワケ?」 「正直言って、まだ分かりません。多分、人間に本来備わっている能力を、計算機群が引き出しているのだと思います。別の研究をしていて偶然、『次元を跨いだ意識の交換』という効果を見つけたのですよ」 二人が話している間、少女はそわそわしていた。何かを待っているようにも見える。 「じゃあ、今、試せるー?」 「はは。それは、もう何日かしてから……」 父が言いかけた時、少女が会話に割り込んだ。 「オレは。別世界から、来たこの子なんです」 自分を指さして、言う。父と和美が一瞬、驚いた表情をした。 「つ、つまりキミは、他の世界から来たというのですか?」 なにか奇妙なモノを見るような目つきで、父が少女に話しかけた。 少女は頷いた。 「ええ。どうも、オレの父親よりあなたの方が『まとも』に見えます」 和美が興味シンシンといった風に、少女を見つめる。少女は思わず目線をそらした。 「オ、オレは、単なるテストだって言われて、この機械──別世界の──のヘッドギアを着けて、気がついたら……と、とにかくここにいたんです」 「ふむ、とても興味深い」 「で、でも。オレ、戻れるんでしょうか。テストは、すぐ終わるって言われてたんですけど」 少女は引きつった笑みを浮かべていた。父は眉を寄せて、告げた。 「それは、理論的には可能だ。しかし──」 「え?」 「しばらくは無理だろう。この世界の近辺の次元が乱れているようなのでね。どこかと情報──多分意識みたいなものが移動したせいだな」 また少女は、自分を指さした。 少女の父は、こくりと頷いた。 「まるで、何かの小説みたいなオチじゃん」 金髪の少女は、にやにやと笑っていた。 FIN << ENDNOTE >> どもども、ご無沙汰の広尾デス。今回は、みっしんぐさんのCGに「話」をつけさせていただきましたっ。みっしんぐさん、どうもアリガトウゴザイマス。 SSですけど、いろいろなパロディー(分かるヒトはバレバレ)が入ってますデス。 広尾は、最近ちょっとアレなんですが、時間をみつけてもうちょっと「小説」を書いていきたいと思ってイマス。ではでは〜〜。 |