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マジック ガン ディティクティブ

原案:「何で俺が・・・」みっしんぐさん作
文:ことぶきひかる&NDCセキュリティサービス


ベッドの上で、少女が寝返りをうっていた。
年の頃、15歳くらいだろうか。
この年頃の女の子ほど、少女という言葉が似合う存在はない。
長い髪、屈託のない幼さの残るその表情・・・
彼女は、あまり寝相のいいほうではなさそうだった。
その身体にかけられたシーツからは、彼女の細く白い四肢が、飛びだしていた。
彼女がおそらく下着・・・少なくともブラジャーを着けていないのは間違いない。
なぜなら、ベッドのすぐ下には、白いブラジャーが、放り出されているからだ。
少女が、小さく寝返りを打つたびに、パステルグリーンのシーツの端から、小さな膨らみが、僅かに垣間見れる。
ぴぴっぴぴっぴぴっぴぴっ
不意に枕元に置かれた目覚ましが、アラーム音を発し始める。
この年頃の少女が使っているとは想えないほど、実用性本意の素っ気ないデザインの目覚ましだった。
いや、この部屋そのものが、15歳の少女の部屋とは想えないほど素っ気なかった。
汚いという意味ではない。
確かに、多少乱雑なところもあるが、それも許容範囲に収まっている。
この部屋が、この少女の似つかない最大の理由は、その殺風景さにあるだろう。
壁は地肌が剥き出し、天井の照明も、蛍光灯が剥き出しのものだ。
寝ているベッドも、パイプベッドに、マットレスを積んだようなものだし、その他の家具も、デザインより、機能重視のものばかり。
とても、15歳の少女の部屋とは想えない。
無頓着という言葉だけでは説明しきれない。
むしろ、一人暮らしの男性の部屋を想わせるものがあった。
この部屋の中で、華やかといえるのがあるとしたら、少女本人を除けば、壁にかけられたセーラー服くらいのものだろう。
むろん、このセーラー服から、彼女がイコール学生であると断言できるものでもないのだが。
アラームを20、数えた頃だろうか。
少女の小さな手が、目覚ましへと伸びた。
手探りで、アラームのスイッチを切ると、目覚ましを持ち上げ、時刻を確認する。
目覚ましを、置き直すと、もぞもぞと、少女の身体が動き始めた。
「う、う〜ん・・・」
少し気怠い呟きを漏らしながら、少女の上半身が、ベッドの上で起きあがった。
豊かな、それでいてクセのない・・・おそらく枝毛もない・・・長い黒髪が、生き物のように大きく揺れた。
少女は、腕を背中に回すようにして、大きく伸びをする。
と、辛うじて肩にかかっていて落下を免れていたシーツが、伸びをした弾みに滑り落ち、まだ小さなものではあるが、形状のいい、将来が楽しみな、二つの乳房が、姿を見せた。
「・・・あ!」
自分の胸が露わになっていることに気づき、少女は、慌てて、シーツをかき集め、胸へと押し当てた。
自分の裸体を見るものが、自分以外に誰もいるはずがないのに、少女の顔は、朱を落としたかのように真っ赤になっていた。
少女は、壁に掛けられた白と紺のセーラー服、コバルトブルーのスカーフ、そして紺のプリーツスカートに目をやる。
そのいずれも、まだ新しく、着崩れも日焼けもしておらず、この少女の置かれた境遇を想像させるものがあった。
「あ、そうか・・・」
少女は、まだ目覚めきっていない眼差しを制服に向けながら、まだ目覚めきっていない口調で呟いた。


「おい、喜べ。柴田、初仕事だ。」
「え、所長、ホントですか?!」
「お前にウソを言って始まらないよ。」
やれやれといわんばかりに、所長の竹内は応えた。
竹内探偵事務所・・・
柴田亮一は、2年ほど前から、この事務所に勤めているが、これまでは、駆け出しと言うことで、竹内所長ともう1人の社員である遠藤の手伝い程度しか任されたことがない。
苦節2年、やっと、1本だちの仕事が任されるときが来たのだ。
所長といっても、竹内の年齢は、ようやく30をすぎたばかりだ。
遠藤も、まだ40には行っていない。
亮一本人を入れても、3人しかいないにも関わらず、竹内探偵事務所の名は、この世界では、かなり知れ渡っていた。
先代にして、この事務所の創設者である竹内の祖父が、相当な腕利きだったことは間違いないが、現所長がその跡を継いだ今も、その名が廃れていないと言うことは、所長と遠藤が、相当の腕利きであるということに他ならない。
もっとも、これまで、亮一は、2人のそんな凄いところを見たことが一度もないのだが。
「今回の依頼は、清滝学園中等部の調査。どうも、納入業者と事務員とで、癒着があるらしい。依頼主は、大口寄付をしているOBの1人。表沙汰にしたくないから、内密に、調査結果をまとめて欲しいんだとさ。」
「清滝学園ですか・・・」
清滝学園、明治中期に、設立され、現在に続く、それなりの名門私立である。
現在では小学から大学まで一貫した教育・・・すなわちエレベーター方式の進学法をとっており、それなりの名門と言うこともあって、中小企業の重役の家庭からの入学者が多い。
もっとも、設立の目的が、如何にも当時らしい「良妻賢母の育成」にあることが、今だ跡を引いているらしく、なかなか反動的な教育方針であることも知られている。
尚、清滝学園は、女子校でもある。
「でも、あそこって、女子校じゃなかったでしたっけ?それも、用務員を除いて、教員や事務員もみんな女性だけって・・・」
亮一の返答に、竹内は、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべた。
「よく知ってるな。じゃあ、お前は、どうやって、中に入ると想う?」
「えーと、教員が無理だとしたら、出入り業者ぐらいですか・・・中等部は無理でも、他のところからもぐり込んで、後は、間違えた振りでもして、中等部へいくとか・・・」
「なかなか、いいトコ突くな。けど、それじゃ、調査に時間がかかりすぎる。そこで、今回は、これを使うんだ。」
そういいながら、竹内は、引き出しから、30センチほどの棒のようなものを取り出した。
棒ではない。
時代劇なんかに出てくる「短筒」そっくりな形をしている。
「な、なんですか。所長、それ?まさか、それで、関係者を脅せっていうんじゃないでしょうね。」
「まあ、いいから、見てなって。おっと動くなよ。」
そう応えながら、竹内は、銃口を亮一に向けた。
既に、引き金には指がかっている。
「しょ、所長、な、なにをするん・・・!」
ぱん!という発射音の後、亮一の視界は、光に覆われた。


「うわ!」
発射音に、反射的に、身をすくめようとする亮一。
だが、身体に何かが当たったような感覚はない。
(あれ?・・・)
おそるおそる目を開ける。
どこも、痛くない・・・
どうやら、あれは、音と光だけの玩具だったらしい。
「ふう・・・所長、脅かしっこはなしで・・・え・・・こ、声・・・あ、あれ・・・!」
亮一は、自分の身に起こった異変に気づいた。
声が、自分の声ではない。
少なくとも、成人の男性の声ではない。
まるで女の子・・・そう中学生くらいの女の子の声だ。
「お、おれの声が、なな、なんだ・・・?」
喉と口に手を当てようとした亮一は、持ち上げた自分の手に、また驚いた。
男の手ではない。
白魚のような・・・という表現がぴったりな細く白い指がそこにあった。
そして、そこから、伸びる腕も、また白く華奢だ。
「ど、どうなってるんだ・・・!」
想わず頭を抱えた亮一は、3つ目の異変に気づいた、
髪が伸びている。
普段は、邪魔にならないようにスポーツ刈り並に短めの紙が、信じられないほど伸びていた。
その先端を目で追うと、それは、腰の近くまで伸びている。
「ほほ〜、なかなか可愛くなったじゃないか。」
すっかり動転していた亮一は、竹内の声に、我に返った。
「しょ、所長!こ、これって!!」
喋り方も口調も自分なのに、声は可愛い女の子のものだったことが、かなりおかしな気分だった。
「ま、待て。順を追って説明するから。今、俺が使った、この銃。
存在転換銃っていうんだ。俺が、爺さんから、この事務所と一緒に引き継いだものさ。
早い話、この銃で撃たれた人間は、なにか別のものに変身してしまう。
横にダイヤルがあるだろ。この組み合わせで、変身するものを選べるようになっている。」
「そ、それじゃ、おれは、その銃で・・・って俺を何に変えたんですか?」
「あれ、まだ気づいてなかったのか?仕方ないなあ。ちょっと鏡を見てこいよ。」
竹内に言われるままに、洗面所へと向かおうとした亮一は、4つ目の異変に気づいた。
服がダブダブになっているのだ。
ズボンなどは、裾が床の上でたまり、今にもずり落ちそうになっていた。
そのズボンを、シャツの袖の中に隠れてしまいそうになる両手で引っ張り上げながら、亮一は鏡の前へと急いだ。
「!」
鏡を一目見て、亮一は言葉を失った。
そこに写っていたのは、見慣れているいつもの自分ではない。
そこに写っていたのは、15歳前後と思しき、長い髪の、ほっそりとした少女・・・美少女といっても差し支えない、可愛らしい少女だった。
服がダブダブなのも当たり前だ。
本来は175センチだった身長が、今は150センチを切ってしまっている。
「どうだ、分かったか?」
背後からの声に亮一が振りかえると、竹内が、ニヤニヤした笑いを浮かべていた。
「女子校に入るなら、女生徒になるのが一番てっとりばやい。教員なんかだと、手続きも複雑になるし、どこでボロが出るか分からない。生徒なら、その辺が一番いいからな。」
「所長、それじゃ、俺に女子校に転入しろと。」
「そういうことだ。初仕事なんだから頑張るんだぞ。そうそう、転入の手続きは、もう済んでる。
制服も届いてるから安心しろ。そうそうセーラー服だぞ。この仕事が終わったら、お前が、持って帰ってもかまわんからな。」
竹内の、少々無責任な返答に、今や美少女となった亮一は、がっくりと項垂れた。


転入するまでの2日間、亮一は、15歳の少女としての振る舞いに慣れるために、みっちりと、訓練を受けることになってしまった。
教師は、竹内の恋人である芳賀幸恵である。
どうやら、彼女、事務所の社員でこそないものの、存在転換銃のことは知っているらしい。
多分、竹内も、幸恵に、しごかれたことがあるのだろう。
下着の付け方から、言葉遣い、歩き方・・・2日という短い期間だけに、かなりのハードスケジュールだったが、それでも、どうにか、形になった。
後は、学校にもぐり込んでから、どれだけ、うまくやれるかだ。
ベッドから起きあがった亮一は、下着を換え、セーラー服を壁からおろした。
「けど、今更、制服・・・それもセーラー服を着る羽目になるとは想わなかったよ。」
箪笥の開き戸の内側に付けられた鏡を見ながら、亮一は、今の自分の姿と境遇に苦笑せざるを得ない。
その鏡の中では、髪の長い少女が、ちょっと困ったな。といわんばかりに、小首を傾げながら、小さな笑みを浮かべていた。

To Be Continued?


やはり、自分が感情移入できないとキータイプが進まない。
ということで、一等萌えた、「何で俺が・・・」を、実質1日で書いてしまいました。
一応、まだ続くような終わり方になっちゃったけど、この先考えてないんだよな・・・
女子校編というのも、萌える展開ではあるが。

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