「そしてふたりは」
作・真城 悠
それは、暑い暑い夏のことだった。
「持ってきた?」
「うん。ばっちり」
僕は胸がどきどきした。やっぱり何度見ても可愛いなあ。
膝下まであるプリーツスカートに苦戦しながら岩肌を登っている佐島百合。そして僕は後藤徹だ。
百合ちゃんはときどきこちらをちらちらと見ている。頂上まではもうすこしだ。
僕たちは…はっきり言って相思相愛だった。そうさ、年齢なんて関係無い。十五歳なんてね。
「ここだね」
「うん」
そこは洞窟の中だった。かなり奥まで入ってきてしまっていたので、真昼間なのにひんやりと涼しい。
「これでばっちりさ」
そしてその奥にはしめ縄にぐるぐる巻きにされた岩がある。良く読めない御札が沢山張ってある。
僕と百合ちゃんはお互いの顔を見合う。
実はこの謎の石には地域に伝わる伝説がある。
この石の両側に立ち、愛を誓い合った者は、生涯に渡って結ばれる、というものだ。
勿論迷信だと思っていた。しかし、地域の大人は執拗にその存在を隠し、近づくことすら戒めた。それが余計にその伝説を際立たせたのだ。
その伝説は真実だった。しかし、いくら大変な事実とはいえあんなに隠したのは失敗だったと思う。何故ならあの石には男女の立ち位置が厳密に決められていたのだから…。
またぐずり始めた。僕は胸をはだけると、産まれたばかりの赤ん坊にその先をくわえさせた。
…あれから十年…か。
それは暑い暑い夏のことだった。
あとがき
すいません。「手抜き」と言われても仕方の無い短さです。
しかし、私の足りない頭では、あれ以上描写を細かくしてもたどり着く結論は一緒だし、入れ替わり後の学園生活を描いたとしてもありきたりの「転校生」の亜流にしかならない、と思いまして…
まあしかし、私の書く話には「戻れない」ものが多いですね(笑)。こんな学園ラブコメみたいな話でもそうなんだからあきれます。
イラストの場面は直接は無かったですけれども、逆にいえばそれいがいは殆ど無い小説ではあります。八重洲さんは当初イラストの横に添えられる短文程度のボリュームの小説を想定していたみたいですし、まあたまにはこんなのもいいかな…ということでお許し下さいませませ。