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お兄ちゃんからお姉ちゃんへ 
弟から妹へ

作:もと(MOTO)



「だれがじゃ!!!」
 亜貴が机から逃げていくより前に、頭にげんこつが突き刺さった。
「わーいじゃねーだろ!!まったく、誰がお兄ちゃんがお姉ちゃんになりましただよ」
「いたいよ、おに…」
 そう言いかけた亜貴の頭にげんこつの第二弾が炸裂した。
「おねえちゃん、いたいよ」
 亜貴の従姉妹のまことは子供の頃から活発で、スカートをはいたところなど見たこともなかった。だから、亜貴も、ずっとまことのことを、親戚のお兄ちゃんとばっかり思っていたのだった。
 そして、夏休みになって、亜貴は姉の美奈代と一緒に、まことの家に1週間ほど遊びに行くことになったのだった。もちろん、亜貴は”まことお兄ちゃん”と遊ぶのを楽しみにしていたのである。ところが、二年ぶりにあったまことは、驚いたことに、まことの姉の麗子のおさがりのスカートをはいていたのだった。そして、女の子しているまことを見た亜貴は、絵日記におもしろがってこんな代物を書いたというわけだった。
「まったく何考えてるんだよ」
「だって、まことおに…じゃない、お姉ちゃんが女だなんて知らなかったんだもん。それに、おねえちゃんさっき、泣いてたじゃないか」
 ちょっと、顔を赤くしたまことは、ぶっきらぼうに言った。
「う、うるさいな。だいたい、それとこれとどう関係が有るっていうんだ」
「だってさ、泣くのは女ってきまってるじゃん」
「なにいってんだよ。じゃあお前だって、泣いてるじゃん。それも、今日だけじゃなく、いままでのことを数えると俺よりもよく泣いてるぜ」
「へ〜ん。だってボク、スカートはいてないもん。お姉ちゃんは女で、スカートはいてるじゃん。男みたいに乱暴だけどさ」
「バカ野郎、なにいってやがるんだ。俺は女だ!まだ、判らないって言うんなら、判るようにしてやろうか」
 まことはそう言うと、亜貴の頭を抱えて、ヘッドロックに持ち込んだ。亜貴はじたばたして叫んだ。
「げげ、こんな乱暴な女いないじゃん。やっぱり、まことはお兄ちゃんだ」
「うるせえ、まだ言うか!!」
 亜貴の頭に拳をギリギリねじ込むようにまことが攻撃を加えると、ついに亜貴はギブアップした。
「わ、わかったよ。ごめんなさい」
「まったく、お前もよく泣くから女だよな」
「そんなわけないよ。ボクはちゃんとチ●●ン付いてるもんな」
「へっ、そんなのあてになるかよ。このまえTVでチ●●ン付いてたって、実は女だったっていうの言ってたぜ。そうかそうか、おめえも女の子だったんだな」
「ち、ちがうもん。ボクは男だ」
「やーい、女、オンナ」
「ちがうもん、ちがうもん」
「じゃあ、男だって言うなら、俺に勝てるか?やってみるか」
 そういって、まことは亜貴に逆エビ固めをかけた。喧嘩しても年上のまことに勝ったことのない、亜貴はすぐに
「ワァーーン、ギブアップギブアップ。」
「ほれ、すぐ泣くじゃんかよ。よし、ギブアップするなら俺の言うこと何でもきくな」
「えぇーー」
「お、もっと逆エビかけてほしいか」
「う、うん。約束する。約束するよ。ぐすんぐすん」
「よ〜し」
 そしてやっと、まことは亜貴を離した。そして、床にすわっている亜貴の前に立ちはだかった。
「お前、チ●●ン付いてるから男だって言ったよな」
「う、うん」
「じゃあ、たしかめてやるよ。服脱げよ」
「え、やだよ。はずかしよ」
「おめえ、おれを”おにいちゃん”って呼んでたじゃないか。じゃあ男同士じゃねえか。それとも、俺の言うことが聞けないって言うのか??」
 そういって、拳の関節をぼきぼき鳴らし始めたまことを見て、亜貴はしぶしぶ服を脱ぎ始めた。だが、最後の白いパンツを脱ぐのはさすがにもじもじしてしまう。だが、
「へーそれ脱げねえってことは女だよな」
の一言で、しぶしぶ足から抜き取った。

「もういいだろ。服着せてよ」
「なんだい、もう着たいのかよ。服、着ちまったら男か女か判らなくなるじゃん」
「そんなことないよ、服着たってボクは男だよ」
「どうだか。服着たら実は女でしたってことになるかもしれねえぜ。」
「そんなことあるもんか!!そんなの科学的にいってもおかしいさ」
「ほ〜科学的か…、それなら…」
 そういうと、まことは亜貴の服を抱えて部屋を出ていった。そして、しばらくすると、ピンクのワンピースや下着を抱えて戻ってきた。そして、それを床にどさっと置いて宣言した。
「よ〜し、じゃあ『科学的』に実験するぞ」
「じっけん?」
「そうさ、さあ早く着替えろよ」
「え、着替えって?」
「スカートはいたって女にならないって言うんだろ、じゃあそれを証明してみせるよ。はやく、この服に着替えな」
「え、そんなのいやだよ。こんな服着るのなんて」
「なにいってんだよ。自分で言ったことくらい責任持てよな」
「でもでも」
 半泣きになっている亜貴をみて、まことは囃したてるように言った。
「そうかそうか、泣いて、自分の言った約束も守れないのってやっぱり男じゃないよな。そうかそうか実験するまでもないよな」
「ちがうわい、ちがうわい」
「じゃあ、早くしな、それとも、俺が無理矢理着せてやろうか」
 右手の拳で左の手のひらを打ち付けながら、まことが言ったその言葉に、あわてて亜貴は床の服を手に取った。
 
「よし、これで完成」
 亜貴が、自分で下着をつけた後、ワンピースの背中のボタンを1つづつとめてあげながら、まことはつぶやいた。
「へ〜。なかなかいいじゃん。似合ってるよ」
「………」
 そういってまことは、顔をあかくして、落ち着かずにもじもじしている亜貴を見つめた。その視線に耐えられず、亜貴は小声で言った。
「ねえ、もういいだろ」
「なにいってんだよ。今着替えたとこじゃん。だいたい自分の姿をみてないだろ」
 そういって、まことは少し考え、うんとうなづいた。
「そうだ、麗子姉ちゃんの部屋行こう。あそこだったら姿見有るし」
 そういうと、まことは亜貴の手を引っ張ってとなりの麗子の部屋まで引っ張っていった。最初は渋っていた亜貴だが、麗子は亜貴の姉の美奈代と一緒にでかけているし、家の中は他にだれもいないからと、言われ、しぶしぶついていった。

「ボク、こんな格好してるの」
 亜貴の第一声はこれだった。ただ、思ったより嫌そうにしていない。ただ、自分がどうなったかにおどろいているようだ。そして、鏡に映った自分の姿をただ見つめ続けていた。
 その様子を満足そうに眺めながら、まことは姉の机の上に視線をうつした。
「あ、姉貴また俺の『なかよし』もちだしてる」
 ぶすっとしてつくえのマンが雑誌を取り上げた。表紙に書かれている絵を見て、亜貴は言った。
「あ、それカードキャプターさくらだ」
「そうそう、マンガ見たことないんのか?」
「うん、美奈代ねえちゃん買わないから」
「自分で買えばいいじゃん。まあいいや、見てもいいからさ」
「…その前に着替えちゃだめ?」
「だめだ、そんなこというとマンガ見せてあげない」
「…わかったよ」
 そういって、亜貴はマンガを読み始めた。そのせいで、まことがこっそり外に出たのに気がつかなかった。
 パシャ
 光の光線におどろいた亜貴にふたたび、パシャ、パシャ、とフラッシュが瞬いた。亜貴は一瞬何がおこったのか判らなかったが、一歩置いたタイミングで叫んだ。
「な、なにすんだよ」
「へっへ〜、写真写真」
「そんな、ひどいよひどいよぉ」
「いいじゃん。男の子なんだし」
 理屈も何にもつかないことをまことは言って、カメラを保護するように上に掲げた。
「やだよ、まことのバカバカ」
「へ〜そんなこと言っていいのかな。着替えなくてもいいのかな」
「え?ふんだ、言われなくても着替えるよぉだ」
 そういって、亜貴はワンピースを脱ごうと背中に手を伸ばした。
『あれ、あれれ?』
 背中でボタンを止めるワンピースなど着たことのなり亜貴は悪戦苦闘を始めた。じつはまことはいちばんボタンが多くて、脱ぎにくいワンピースをタンスの中から選んで来たのだった。しかも、ピンでリボンなどのアクセサリも付けたので、まず1人では脱ぐことができなくなっていたのだった。
「どうしたんだよ。脱いでもいいんだぜ」
 からかうように言ったまことに、亜貴は泣きながら訴えた。
「まことお姉ちゃん、やだよぉ。ぬがせてよぉ。バカバカ」
「へ〜んだ。俺のことをバカにしたからさ、もう一生そのままでいさせてやるよ」
「わぁぁぁん、ごめんなさい、でもやだよ」
「じゃあ、俺の言ったとうりすれば、助けてあげるぞ」
 そのことばに、亜貴はとびついた。
「よ〜し、じゃあちょと待ちな」
 そういうと、まことは麗子の本棚にむかい、何冊か小中学生向けの小説をだしてぱらぱらとめくった。
 そして、ふむ、とうなづいて、1冊の本のページをめくり、亜貴の前に置いた。
「よし、じゃあ、朗読だ」
「ろうどく?」
「本を読むんだ。これならよめるだろ。だけど、感情を込めて読むんだぞ」
「う、うん」
 亜貴は、うなづいて、読み始めた。

『あたし、藤川亜美。小学校5年生の女の子。家族はお父さんとお母さんとお兄ちゃんをあたしの4人家族。趣味はお母さんに習ったクッキー造り。そしてお庭でガーデニングと言って、お花を育てるのが大好きです。特に、コスモスとなでしことかすみ草がかわいいから大好きです。だから、今日のあたしのお洋服も白のブラウスに、かわいい花かごのデザインのワンピースです。だって、女の子なんだもん。かわいいワンピーづを着れてとってもうれしいわぁ。ほんとに女の子に生まれてきてよかった。』

 最初は普通に読んでいた亜貴だったが、だんだん顔が赤色がさしてきた。そして、棒読みになっていった。すると、すかさず、まことは
「はい、感情を込める。そのまま読むんじゃないよ。主人公になりきってよまなけりゃ」
「だってぇ」
「あ、その言い方の感じ近いかも」
「でも、どんなふうによめばいんだよ」
「そうだな、華原○美みたいなのどうだ?」
「え〜、あんなしゃべりかたするの。できないよぉ」
「じゃあ、できるように考えてやってみろよ。主人公の女の子のようになりきらないと不合格だからな」
「そんなこといったって」
 それでも、亜貴はクラスの女子のなかで一番イメージに近い子のしゃべり方を思い出しながら、なんとか読み始めた。
「うみゅ、いいよ。本当の女の子みたいだったぞ」


「ただいま!」
「かえったわよ」
 その時、玄関から2人の姉たちの声が聞こえた。あわててばたばたと部屋をかたづけてると、麗子が部屋に駆け上がって来る音が聞こえた。
「こら!まこと!!またあたし部屋に勝手に入ったでしょ!」
 その瞬間に、麗子は部屋の入口で立ちつくした。そして、その後ろから、美奈代も姿を見せた。
 わぁぁぁぁ。お姉ちゃんたちにみられちゃったよ。おこられるうぅぅ、と亜貴が身をすくめた瞬間…
「か、かわいいぃぃぃ!!」
『へ?』
「すごいすごい、亜貴ちゃんむちゃくちゃかわいいよぉ」
『え、え、』
「あ、あの…なに言ってんだよぉ」
 そう言う亜貴のことは全く無視して2人は完全に盛り上がっていった。
「ほんとほんと。まことだけじゃなく、亜貴ちゃんも妹にしちゃおうか」
「賛成賛成。これ、まこちゃんが着せてあげたの」
「あ、ああそうだよ」
「ねえ、背中のボタンが…脱げないんだよ。脱がしてよ」
「えぇぇ!!!!」
 麗子と美奈代はいっせいに声をあげた。
「だめ」、ぜったいだめ」
「なにってのさ。せっかくかわいくなったのに」
「あ、カメラがあるみんなで記念撮影記念撮影」
 麗子と美奈代は亜貴を挟み込むように床にポーズを取った。そして、亜貴が逃げないように両方からがしっと捕まえた。それでも、亜貴は恥ずかしがってばたばたしていた。
「やだよ、はずかしよぉ」
「そんなコト言ってると、もう一生そのまんまよ」
「あ、それもいいかも、まことだけじゃなく、あたしもう一人妹が欲しかったもん」
「あ、ずるぃ〜い。亜貴はあたしの妹になのにぃ」
 麗子が亜貴の頭を抱きしめるように、そして、美奈代が亜貴の右腕をがしっと捕まえながら言い争いを始めた。
「じゃあ、ふたりの妹にしようよ」
「う〜ん。まあいいか」
「姉貴、カメラの準備できてるぞ」
「もう、まことったら、亜貴ちゃんが悪い言葉づかいをまねたらどうするの。ねえ、亜貴ちゃん。もう、乱暴はせずに、おとなしくおしとやかになるわよね」
「さもないと、ずっと服はそのままよ」
 亜貴は、笑顔で、だけど迫力のある2人の姉に気圧されおとなしくなった。
「まこちゃんもはいりなさいよ。4姉妹みたいでしょ」
「ほい」
 
「でも、どうして、まこちゃんが亜貴にワンピース着せてあげたの」
「いや、亜貴がこんな絵日記かいたからさ」
 そういって、亜貴は美奈代に絵日記を見せた。
「そっか。でも、これきのうの日記よね」
「う、うん」
「じゃあ、今日の絵日記をつけなさい」
「もちろん、書くことは判ってるわよね。言われたとおり書きなさい」
「そのあとで、ちゃんと絵も描くんだぜ」 

 ○月△日
 きのう、おねえちゃんが、おにいちゃんになりました。
 今日はあたしがおとうとから、いもうとになりました。
 おねえちゃんたちがかわいいお洋服をきせてくれて、うれしかったです。
 いもうとになったあたしをみて、おねえちゃんはよろこんでいます。


 そして、亜貴はその夜、姉たちにかかされた日記にこっそり文書を書き加えた。

 でも、ぼく、このままいもうとになってしまうのかな。おねえちゃんだけでなく、
おばさんもおもしろがって、服ぬがしてくれなかったし。うちからもってきた服は
美奈代ねちゃんがどっかにかくしちゃうし。
 このまんま、ぼく、女の子になちゃったらどうしよう。

                   <FIN>


 えっと、作者のもと(MOTO)です。角さんの絵日記CGを見て、話し的にはこのCGやお話を書かれた猫野さんや真城さんのストーリーで、ほぼ全てを語っているなと感じられました。だけど、ふと、この日記を書いた弟がTSするのはたぶんだれも考えないだろう。と思って作品を書いてみました。(こういうのを世間ではへそ曲がりといいます(^_^;))
 全体の流れはすぐに思いついたのですが、個々のエピソードの構築に時間がかかってしまいました。ちなみに4姉妹としたのはことぶきさんの名作にあやかろうと(笑)、4人の名前がどこからとったかはわかりますよね?

 ところで、まことなんですが、「じつは最初から女の子だった」的に描いたんですが、本当にそうなのかは、知りません。(^_^;)みなさんで、ご自由に解釈をしていただいたら結構かと思います。(もっとも、このHPに来る人のほとんどが同じ結論だったりして(爆)その場合、服はSugarSweet社製だったりして。 (笑))そして、亜貴が最後に気にしていることも、実際にどうなったかはお話しすることもないででしょう。
 それでは感想をお持ちしています。




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