「キャンディ・キャンディ」
作・真城 悠
ずらりと集まっている貴族たち。
「今日は何だって?」
「何でも仮装舞踏会の下準備らしいぞ」
「やれやれ、皇女様のわがままには付き合いきれんな」
「よせよ」
「そうだそうだ。大体圧制を敷いている訳でも無きゃ思想統制されている訳でもない。ただ皇女が無邪気なだけさ」
「ところでロマンスはどこに行ったんだ?最近姿を見ないが…」
「何でも皇女様じきじきの出張依頼を受けたらしいぜ」
「何!?じゃあ奴が一歩リードか?」
「いや、何でもオベルという奴も一緒らしい」
「オベル?知らんな」
「下級貴族らしい」
若い男達がそんな話をしている所に王家直属の家臣が姿を表す。
場に緊張が走る。
「皆さん、ようこそお集まり下さいました。今日、この時間にいらしていただいたのは他でもありません」
あれは皇女つきの世話係のひとり。いわば「じい」だな、と当たりをつけるケーディス。
「今夜の仮装舞踏会は一風変わった趣向で行われます。その下準備のためです」
「灰かぶりでも来るのか?」
「皇女主催ではそれもあるまい」
「皆さんにはこちらの「くじ」を引いていただきます。そこに書いてある「名前」が今回のテーマになります。尚、衣装その他についてはこちらが用意させて頂きます」
軽くざわざわとどよめきが起こる。これまでにない趣向だ。
「その「仮装」の内容にはどの様な物があるのか?」
誰かから質問が飛んだ。もっともな疑問である。
「それにはお答えできませぬ。皇女様はその「意外性」も含めての趣向、との仰せです」
「それは横暴では無いのか」
「参加は強制ではありません。辞退なさる方は今すぐに申し出てください」
2、3人が抜けて行く。不名誉な格好をさせられては適わない、ということなのだろう。まあ、これまでにそんな例は無いのだが。純粋に忙しいのかも知れない。
「それではくじを引いてください」
と、おそろいのエプロンドレスに身を包んだ可愛らしいメイド二人が箱を持ってくる。「引け」ということなのだろう。
「引いてからでは辞退は受け付けませぬ」
しかし、もう辞退者は出ない。次々に引いていく。
ケーディスもそれを引いた。
「おお、ランスロットとある」
「こちらはマーリンだ」
等と言った声が挙がる。
ほう、史劇系か。皇女の芝居好きは聞こえてきている。仮装舞踏会としての趣旨は悪くない…などと考えながら紙をめくる。と、そこには
「キャンディキャンディ」
とある。
…何だこれは?
配り終わって並んで立つ。二人のメイド。
「なあ…」
「何だよ。無駄口聞くな」
「この中にも俺達の「お仲間」いるんだろうなあ…」
「…まあな」
「それでは準備を始めまする」
と、全員が何やら苦しみ始めた。
その「違和感」はケーディスをも襲っていた。
「な…何だ…これは…?」
ケーディスの手は、目の前で細く、美しく変貌を始めていた。
どこからとも無く黒服の集団が会場に入ってくる。
苦痛から開放された男達を襲ったのはあらゆる衣装の洪水だった。ある男は銀色の甲冑姿となり、またある者は漆黒のローブをまとった魔法使い姿となった。それのみならず、ある男はその身体を含め、きらびやかなドレスに身を包んだ令嬢となっていた。
「こ、これは…一体…?」
変わり果てた自分のその姿に驚く男…いや、今は女である。周囲の視線が釘付けになる。
そして…
な、何何だこれは…
ケーディスは、嵐の様に過ぎ去って行った黒服たちによって、清楚なエプロンドレス姿の少女にされていたのだ。
「そういうこと…か」
自分のものとは信じられ無い、服の上からでもはっきりと分かるそのふくよかな乳房と膝下まであるロングスカートを見ながらようやくこの「仮装舞踏会」の趣旨を理解した。
奇跡的にもまだ握られていた「くじ」を広げる。そこには変わらず「キャンディキャンディ」の文字がある。
「もうちょっとマシな名前が…欲しかったぜ…」
その声もすでに美しかった。
あとがき
どうも、復帰真城です。
今回は「名前」というキーワードがあったので比較的楽でした。どうもこの「皇女様」はこうやって男共をからかうのが好きみたいです(笑)。はい。高橋留美子みたいな人ですね。いい人です(爆)。
ちなみにひょっとしたらお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、この小説はとある一編とリンクしています。同「ギャラリー」の「やられた…」(無論、真城作のそれ)がそれです。正式な「続編」という訳ではありませんが、あちらを読んでからお読みになるとより一層お楽しみ頂けますので…
それでは、また次回作でお会いしましょう。いやー皇女様って本当に、いいもんですねー(微妙にずれたカメラ目線で)。それではまた来週。一緒に楽しみましょう。さようなら〜。