戻る

会話
作:山崎智美prj.


「なにこっち見てんだよっ。なんか用かよ」
「なにしてたっていいだろ。おれんちはこの近くなんだから」
「そういえばおまえ、リトルリーグの最後の試合に 先発メンバーで出たんだって?」
「おれよりチビでヘタクソだったおまえが、 なんで公式試合の先発メンバーなんだよ」
「おれよりでかくなったからっていい気になんなよ。 なんでお前なんかがおれより…」
「うるさいっ。お前みたいな生意気な奴は、 こうやって蹴り入れて…あっ」
「痛てっ、何すんだよ」
「うるさい、ほっといてくれ。怪我したっていいよ」
「そういや6年生になってから、おれ相手の時に おまえら手抜きしてただろ、わかってんだぞ」
「うるせー、熱出しながら試合出た奴もいるじゃねーか、 ひと月寝こんだくらいで何を」
「だから怪我したっていいんだよ、 骨折したやつだって何人もいるじゃねえか。 なんでおれだけ…」
「おまえには関係ねーだろ、おれの胸がでかくなったって」
「滑りこみなんて前からやってたじゃねえか。関係ねーよ」
「くっそー。どいつもこいつもひとのことを…」
「ふんっだ…で、おまえはこんなとこでなにしてんだよ」
「ふーん制服か。あの制服、学ランの割に凝ってていいよな」
「な、なんでおれがセーラー服なんか着るかよ。 セーラー服なんか着ないよ買わないよ、 今日は学ラン買いに来たんだよ。 中学じゃ同じ制服着るんだよな、あははは」
「このやろー、見てやがったのか、ひとが試着してるところを。 着てるだけで恥ずかしいのにおまえなんかに…」
「き、きるもんか。おこずかい全部はたいてでも学ラン 買ってやるっ…ところで、おまえいくらか知ってるか?」
「そっか、そんなもんか。うん買えそうだ」
「なにっ、あんなもんおまえにやるよ。 おれのかわりだ、お前が着ていけ」
「大丈夫大丈夫、ほらほらおれの代わりに女子更衣室で 女子の裸も見れるよ〜」
「いいや、おれはもう1回着たんだ。 次はおまえの番だ。なにがなんでもおまえに着せてやる。 のぞき見した罰だ」
「そうとも。絶対入学式では学ラン着てくるからな」
「う…この髪、うっとしくていやなんだ」
「母ちゃんがうるさいんだ」
「うん、おまえくらいがいいかなー」
「あはは、そうだな。野球部入るなら頭丸めるのもいいな …でもじいちゃんも最近うるさいんだ」
「う…そんなことはない、絶対に、 入学式には絶対に着てくるるからなっ」



「なにこっち見てんだよっ。見るなよ」
「…くそー、なんでおれだけがこんな目に…」
「今度絶対にお前に着せてやるからな」
「…そうだ、今すぐトイレかどこかで着替えようよ」
「もちろんお前がセーラー服を着るんだよ」
「なあ頼むよ…」
「えーいっ、肝心な時に役にたたねー奴」
「買ったよ、でも持ってこれなかった。だって親がついて来てるんだぜ」
「髪か?こないだ自分でハサミつかって切ったんだ」
「なんか切りにくくて、なかなか切れなかった。 ハサミが悪かったのかなぁ」
「お前と同じくらいにしようと思ったんだけど、 きれいに切れなかったんだ」
「母ちゃんに叱られたよ」
「もうちょっと短くしたかったなー」
「あーもうすぐ入学式の時間だ。確かこの中学、 リトルリーグで一緒だったやつらや先輩達も 結構いるんだよなー」
「こんな恰好見られたくないんだ…だから、なっ」
「…あーあ。お前以外に頼めそうな奴、知らないしなー」
「…もう時間だ…」



「なにこっち見てんだよっ、さっさと帰れよ」
「着てこようと思ったけどさ、親がさ…」
「暇なくってさ、おれまだ1回も着てないんだよ」
「あっそうか、そうだよな。明日は絶対持ってこよう」
「明日、お前にこれ着せてやるからさ」
「…あっそー。なんでおれだけまだ着れないんだよー、 みんな毎日着てるのに。」
「昨日は先輩に見つかって死ぬほど恥ずかしかったしよー。 おれだけ笑いもんにされて…」
「くそー、一緒に野球やってた連中みんな学ラン着てるのに、 なんでおれひとりだけこんな恰好なんだよっ」
「うるせー、こんなセーラー服、 いますぐずたずたにしてやりてーよ」
「もったいないならお前が着ろよ」
「ふんっ…そういえば、部活、おまえどうする?」
「やっぱりか。この中学の野球部、ちょっと弱そうだけど、 レギュラーになれそうでいいよなっ。 おれどんどん活躍しちゃうよ」
「大丈夫だって、入れるって。おれが入れないで誰が入れる」
「あっ、帰るのか、じゃーな」
「…やだよ、おれだけこんな恰好なのに、一緒に帰るなんて。 ひとりで帰るよ」



「なにこっち見てんだよっ、あっち行けよ」
「持ってきたよ。朝トイレで着替えようとしたけど、 人が多くて着替えられなかったんだよ」
「…今なら大丈夫か。よし、今から着替えてくる」

「あははは、男子トイレ入ろうとしたら、人が入ってきちゃってさ。 知ってる人で良かったよ。あははは。ここ、人の割にトイレ少ないよなー。 セーラー服じゃトイレも入れねーや」
「じゃあこれ、お前着ろよ」
「ふんっ、なんでおれだけこんなん着せられるんだ」
「…まっいいや。ようやくこれ着られたことだし。 ちゃんとした恰好で帰れるぞ。よし、一緒に帰ろ」
「ほら、リトルリーグの練習やってる時、 中学入った先輩達が制服姿で見に来てただろ? あと、中学の試合見に行った時、 行き帰りで制服姿の先輩に会ったりしたろ? だから、この制服着て、おれも中学生になったなー、 あの先輩達とおなじくらい大人になったなー、って感じがして」
「おまえらだけ先に着てるから、腹立つしよー」
「おれひとりだけのけ者なんてやだぜ」
「朝も昼も着たいよなー」
「えっ、なに?」
「ほらー入れるじゃないか、野球部」
「明後日から練習?急いで入部届け出さなきゃ」



「なにこっち見てんだよっ、あっち向けよ」
「なんでおれだけブルマーなんだ…」
「よりによって、野球部でこんな恰好しなきゃなんないなんて …おれだけ…」
「体操服まで頭回らなかったよ…」
「そうだ、ブルマーの下にちり紙つめてさ、『でかいのついてるだろー』 ってやれば、ブルマーはかなくていいかな。あはは」
「…うるせーよ、先生が言うんだよ、 ブラジャーつけなきゃ練習に加えないって」
「なんで女の先生にいちいちあんなこと言われなきゃなんないんだよ」
「こんな恰好じゃ恥ずかしくて練習になんないよ」
「あーあ、この恰好のままで外に出るのか…」

「…なんでおれひとりだけ、こんな恥ずかしい恰好で学校の外まで 走り回らせられるんだ、ブルマーにブラジャーなんて…」
「こんなんなら裸の方がマシだよ…」
「ん?もちろん、おまえ達と一緒に着替えるよ。当然だろ? 女子更衣室で学ランに着替えたら、何か言われるよ」
「あっ、これ、帰りは使わないからお前着ろよ」
「じゃあこっちのブルマーとブラジャーはどうだ …って汗臭いけど」
「ふん…じゃあお前なら…おい、お前ならサイズ合うだろう」
「おまえにやるよ…くそう、おれひとりだけこんな…あっ先生 …あいたた、ちょっと…」

「あははは、先生に叱られちゃったよ」
「うん、学ランに着替えられなくってさ。 重たいのをせっかく持ってきたのに」
「あーあ、こんなかんな恰好で帰るのやだなー」
「裏道歩こうよ、こんな恰好で大通り歩けないよ」
「八百屋のおばちゃんに見つかったら、 何言われるか分かったもんじゃないし」
「おまえは学ラン着てるのによー、 おれだけこんな恰好で街歩かなきゃならないなんて…」
「なにじろじろ見てんだよ、笑ってやがるな」
「…だれが『かわいい』って?蹴り入れてや…おっと」
「これ歩きにくいし蹴りにくいし、やだよ…」
「おれがこんなひらひらスカートはいてて気持ち悪いだろ?」
「ふんっ…野球部、あんなんならやめようかな…」
「どうせ強くなさそうだし…」
「でも部活やめたら、親に変な事させられそうだなー」
「ピアノとか華道とか言うんだぜ」
「へ?」
「やだよ、女子野球部なんて…絶対入らないからな。なんでおれだけ…」



「なっ、なんでこんなとこに。なにこっち見てんだよっ」
「ひとんちの玄関先、勝手に見るなよ」
「親に無理やり着せられたんだ、親戚の結婚式だからって…」
「こんな恰好やだよ…なんでおれだけ…」
「これじゃクラスの女達とまったく一緒じゃねーかよ」
「…このやろう、これ、こんどお前に着せてやるからなっ」
「あっ、だれかくる、おまえあっち行け」
「はい…まだ10時前です…はい」
「いえ、ここでまってますから…はい」
「…まだいやがったのか、このやろう…」
「母ちゃんがうるさいんだよ、最近叩くしよー」
「あっ、いや、それだけはやめてくれ、頼む、黙っててくれ」
「セーラー服でも十分はずかしいのに、こんな恰好した事知られたら…」
「いや、おまえらに馬鹿にされるのはまだいいんだ、 あの女達に同類と思われるのだけだけは…」
「最近女子が妙になれなれしいんだ。 前はあんなじゃなかったのに。学校で同じ服着てるだけなのに…」
「あー、もう行くみたいだ。頼む、黙っててくれよな…」



「なにこっち見てんだよっ。なんか用かよ」
「うるせー。うちの親、 最近こういう服しか買ってくれないんだよ」
「いつも着てるのは洗濯してて、 ちょうどいいのがないんだよ」
「いいなー、おれもそういうの欲しいなー」
「なあなあ、ひとつ交換しないか?」
「いいじゃねえか。別にスカートじゃないのやるから、 おまえが着たって大丈夫だよ」
「ふんっ…じゃあさ、ちいさくなったのをくれない?」
「うん、考えといてね」
「で、今日は何しにきた?」
「夏服か、おれも買わなきゃ」
「やだよー、おまえが買えよ。おれ着ないよ」
「あの学ランだって、何回着れたんだろう…」
「おれ、セーラー服着るなんて考えてもいなかったのに…」



「お、こっちこい、見ろ見ろ。かっこいいだろう」
「衣更え前にもう1回は着て帰りたかったんだ」
「衣更え前におまえもセーラー服一回は着とけよ」
「…ふん。まっいいや」
「ああ、悪りぃ。最近女子が一緒に帰ろうってうるさいんだ。 今日はなんとかだましたけど」
「ん?別に仲良くなんかねーよ、あの女達。いつもまとわりついてくるんだ。 一緒に帰ろうってうるさいから、着替える暇もない」
「だれが『女の子グループ』だ、おれは巻き込まれてるだけだ」
「うん、だから出来るだけだまそうとはしてるんだけど」
「え?おまえ塾行くのか?へー。野球高校強いとこ行くつもりか?」
「へー、ずいぶん高望みだな」
「え?おれか?えーと…」
「うるせー、だれが女子高だ、このやろう」
「ま、まだ決めてねーよ。ふんっ」
「かっこいいだろう。しかし、教室の鏡ってこんな時にしか役にたたねーな」
「…今度『かわいい』なんて言ったら殴ってやる。 ひとが学ラン着てかっこつけてるってのに」
「制服なんだから似合わなくたっていいんだよっ」
「あぁ、鏡なら毎朝見てる。出かける前に母ちゃんに鏡の前に立たされるんだ。 あれいやなんだ…でもおれ一人でうつるだけだからまだいいか」
「言ったな、殴ってやる」
「あぁ、この鏡見たら、いやでも比べてしまうわい。同じ服着てるやつらと」
「この鏡、外してくれないかな。授業中に鏡なんか見たくもないのに」




あの女の子(?)の目つきだけで書いたもんです。 「ローズマリーにくちづけを」というタイトルとは一切関係ないです。 すいません。


戻る