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マジック ガン スチューデント

柔らかいヴァージョン

原案:                       
「風雲ぺったんこ座り」いしがき・てつさん作  
 文:ことぶきひかる&NDCセキュリティサービス


「おはよー。」
「おはよー。美春。」
いつものように快活な朝の挨拶の中、美春と呼ばれた少女は、自分の席へとむかった。
いつものように机の脇のフックに、鞄をかけようとした彼女は、机の天板とそれを支えるパイプの間に、なにかが挟まっていることに気づいた。
引っぱり出してみれば、それは、4つ折りにされた、レポート用紙と思しき紙。
彼女は、少し鬱陶しげに、その紙を広げた。
ちらりと、一瞥しただけで、彼女は、その紙を、くしゃくしゃに丸めた。
丸められた紙屑は、ゴミ箱へと放り込まれる。
壁にワンクッションして、紙は、ゴミ箱の中に消えた。
よほど、慣れた行為なのだろう。
彼女は、ゴミ箱を、ちらりとすら見ていない。
紙屑が、ゴミ箱の中に入った軽い音を聞きながら、彼女は、小さくため息をついた。
ふと、前を見てみれば、1人の男子生徒が、こちらをムキながら、小さく手を振っているのが見えた。
その姿を見て、美春は、再度ため息をつく。
その男子生徒は、先ほどの手紙の主だ。
同じクラスなんだし、わざわざこんなまどろっこしいことをしなくても、直接話せばいいじゃないか。
帰りに、ゲーセンによる事くらい。
だがその男子生徒、和規いわく、
「こうした方が、如何にも恋人同士っぽくていいじゃないか。」
ということなのだが、美春にしてみれば、そんなつもりで、和規と恋人になったわけではない。
厳密に言うのなら、2人の関係は、偽装恋人なのだ。
3ヶ月前・・・まだ7月、ある事情から、美春は、和規と、恋人の振りすることになった。
言い寄ってくる男子から逃れるには、それがウソであっても、彼氏がいるということがもっとも効果的といえた。
そこまでして、美春が、男子の求愛ダンスから逃れようとするのは、それなりにわけがあった。
そして、その理由を知っているのは、美春本人を除けば、和規だけ。
3ヶ月前まで・・・少なくとも、美春と和規の記憶では、彼女は・・・彼は、義春という男の子だったはずなのだ。
そして、その事を知っているのは・・・覚えているのは、やはり美春本人を除けば、和規だけなのだ。


7月も半ばをすぎようと言う頃、義春と和規は、いつものように、学校の帰り道・・・河原へとさしかかっていた。
その辺に転がっているボールで、キャッチボールやサッカーをしていくのが、2人の日課となっていた。
その日も、いつものように、ボロボロのサッカーボールを蹴り上げようとしていた和規は、椅子代わりに使われているオイル缶の上に、なにかが置かれていることに気づいた。
「ありゃ・・・なんだ?」
それを持ちあげてみる和規。
黒光りし、金属と、何かの木で造られたそれは、なにか銃のように見えた。
「なんだ。こりゃ、てっぽーかなんかかな?」
確かに、それは、時代劇などに出てくる短筒によく似ていた。
「おーい、和規。どーした。」
いつまでたっても、動こうとしない和規に、義春が声をかけてきた。
「ちょっと、これみてくれよ。」
「なんだ?」
和規が差し出した短筒らしきものを、しみじみと見つめる義春。
「鉄砲みたいだな・・・けど、このダイヤルみたいなものってなんだ。」
その短筒もどきの側面には、計3つの、小さなダイヤルのようなものがついていた。
「これって、本物じゃないよな。」
「まさか、確かに金属みたいだけど、こんなダイヤルがついているなんて、どうみても偽物さ。飾り物かなんかだろ。」
「ふ〜ん、けど、なんかよくできてるね。」
「そんなもんかな。」
そう呟きながら、和規は、短筒もどきを握り、引き金に指をかけた。
「お、おい、こっちに向けるなよ。」
「安心しろよ。本物だとしても、弾がはいっているわけ・・・」
笑いながら、引き金にかかった指に力を込める和規。
そして、次の瞬間、彼の笑いは引きつった。
パン!
小さなしかし明らかな爆発音の後、閃光が、彼の視界を覆った。


パン!
和規が引き金を引いた瞬間、爆発音が響き、義春は反射的に頭を両腕で覆っていた。
数秒後・・・
痛みは感じられなかった・・・
多分、弾は出てない。
自分が即死していなければ・・・だが。
ゆっくりと腕をおろし、正面を見た。
和規が、短筒もどきを握ったまま、こちらを見つめている。
その表情は、信じられないといわんばかりに引きつったままだ。
まあ、無理もないだろう。
偽物だと想っていた銃から、少なくとも音だけはしたのだから、
どうやら、音と光だけを発する、痴漢撃退用か、パーティ用グッズだったに違いない。
「どうしたんだよ、和規、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して・・・」
義春の声に、和規は応えようとしない。
「どうしたんだよ。和規。」
だが、次の瞬間、和規の返答が、義春を困惑させることになった。
「あ、お、おまえ・・・きみ・・・だれ?」
「え、誰って・・・おれ、義春だけど・・・え?!」
決まってるだろ!といわんばかりに応えようとした義春は、異変に気づいた。
声が、いつもと違う。
先ほどは、爆発音のせいで、ちょっと耳がおかしくなったのかなと想ったが、和宣の声がいつもと同じと言うことは、そうではなさそうだ。
いつもの声ではなかった。
少なくとも、聞き慣れた自分の声ではない。
少し甲高い、アクセントが鼻にかかるような・・・そう、まるで、同世代の女のコの様な声だ。
「ど、どうなってるんだ?」
その声もまた女の子の声だ。
悪い夢ならさめて欲しいと、頭をふると、なにか、細く柔らかなものが、幾本も束になって、頬を叩いた。
視線をそちらに向ければ、肩より少し上まで伸びた髪が見えた。
そんな・・・
夏にあわせて、やや短めにしたばかりのはずなのに。
と同時に、肩のあたりの衣服の色に気づく。
先ほどまで、白の開襟シャツを着ていたはずなのに、そこには、茶色の布地が見える。
土が付いたとか、そういう色ではない。
「なに?!」
がばっと、義春は、視線を下へと向けた。
開襟シャツに、スラックスという、先ほどまで義春の来ていた服は、どこにもなかった。
かわりに、ブラウン系主体の色調で染められたセーラー服があった。
義春の通っている高校の女子の制服だ。
2年ほど前に、デザインが変わったばかりで、セーラー服人気が落ちてきている最近としては、評判はすこぶる良く、女子の志願数が2割ほど増えたとか増えないとか。
とにかく、今、義春の身体を包んでいるのは、確かに、セーラー服だった。
半袖から突き出された細い腕の白さが眩しい。
これは、オレの腕か。
そして、これはオレが着ている服か。
しかも、セーラー服の胸のあたりは、そこに明らかになにかまとまった大きさのものを覆っていることを示すように、盛り上がっていた。
まさか・・・
その布地の下に隠れているものを予想してしまった義春は、慌てて、それを否定しようとする。
そんなことあり得るはずがなかった。
セーラー服の中に、オッパイがあることは、なんら不思議なことではないが、それが、自分の身体となれば、話は別だ。
きっと、作ほどの爆発音で、自分は、うっかり気絶してしまい、その隙に、だれかが自分を着替えさえ、カツラをかぶらせ、ご丁寧にも、胸パッドか何かを入れていったのだ。
そうに違いない。
そう言い聞かせようにも、腕の細さや声の変化など、それだけでは説明の付かないことがあった。
まさかね・・・
触って確かめれば、この胸がウソであることはすぐに分かる。
半袖から飛び出た細い腕が動き、その先にある華奢な指が、セーラー服越しに、盛り上がった胸を掴む。
むにぃ
出来立てのパンのように柔らかな感触が、指先から伝わってくる。
と同時に、自分の胸からは、なにかに胸を掴まれているという不思議な感触。
「うわー!」
たまらず悲鳴をあげる義春。
可愛らしい声に、その叫びかたは、実にそぐわないものだった。
「あるよ・・・あるよ・・・」
今だ、それが本物であることを納得できないと言う響きの声。
最後の望みをかけて、裾の端に白のラインが入ったライトブラウンのプリーツスカートに手を伸ばす。
スカートをまくりあげると、そこには、白地に青のストライプのパンティ。
しかも、両脚の付け根に当たる部分は、なにも盛り上がりが見えない。
最後の最後の望みに全てを託し、義春は、股間に手を当てる。
だが、指先は、何も捉えず、お尻の方までいってしまう。
「な、ないぃ?・・・」
最後の望みを絶たれ、義春は、力無く崩れ落ちた。


一方、和規の方も、困惑していた。
偽物だと思っていた銃の引き金を引いたら、凄い爆発音に、閃光。
そして、それが収まったと想ったら、義春の姿はなく、そこには、見知らぬ・・・着ていたセーラー服のデザインから、多分、自分の通っている高校の女子生徒なんだろうけど・・・女のコが立っていたのだ。
しかも、その女のコは自分のことを義春だと名乗り、いきなり自分の胸を揉みはじめたり、スカートをまくりあげ、さらには、股間に手を当てはじめたと来た日には、どうしたらいいか、分からない。
しかも、女のコのそんな素振りを生で見たら、和規は、いやでも、自分の身体の一部が硬直化することを感じずにはいられなかった。
不意に女のコの体勢が崩れる。
視線が宙を彷徨ったまま、両膝から力が抜け、それぞれの脚が[V]を造り、両脚1セットで「W」を描くようにして、ぺたんと、お尻が地面におちる。
俗に言う「女のコ座り」もしくは「ぺったんこ座り」ってやつだ。
スカートが程良く広がってくれたお陰で、下着が見えてしまうことにはならなかったが、それでも、かなり女のコを感じさせる姿勢であることにかわりはない。
不意に、女のコの視線が、和規に向けられた。
「かずのり〜い、どうしよう、おれ、女のコになっちゃったみたいだよ。」
へ?
和規は、訝しんだ。
何故、初対面のこの子が、自分の名を知っているのだろう。
それに、女のコになっちゃったって・・・まさか、「はつしお」・・・か?・・・!
不意に、先ほどの言葉が脳裏に蘇る。
この子は、自分のことを義春と呼んでいた。
「お、おま、おまえ・・・もしかして、義春なのか?」
「もしかしなくても、義春だよお・・・」
その弱々しい口調と今にも泣き出しそうな表情に、和規は、自分の身体の一部の硬度が更に強くなったことを感じた。


和規が、彼女のことを義春と信じるまで、およそ5分ほどの時間が必要だった。
最初は半信半疑だった和規も、自分と義春しか知らないようなことを話されるに至っては、もはや信じるしかなかった。
「おれ、これから、どうしよう・・・」
「う〜ん、けど、一体、なんでこんなことに・・・」
「・・・あ!さっきの鉄砲、あれじゃないか?!」
「あ!」
そういえば、閃光が収まった後、義春の格好は変わっていた・・・ということは、やはり、あの銃が・・・
「どこだ。どこいった?」
先ほどまで握っていたはずなのに、あの短筒もどきは、どこにも見えない。
「あ!あれ!」
義春の可愛らしい声に、和規が、そちらに視線を向けると、野良らしい1匹の犬が、短筒もどきを加えているところだった。
「あ!待てえ!!」
どこかに、持っていかれたらたまったもんではない。
義春は、がばっと立ち上がろうとしたが、慣れていないぺったんこ座りのせいで、想うように立ち上がることができない。
前のめりにひっくり返りそうになりながらも、どうにか、立ち上がると、スカートをはいていることも忘れ・・・といっても、はき慣れていないんだから仕方ないんだけど、凄まじい勢いとフォームで走り出した。
犬というのは、追いかければ・・・逃げるか立ち向かってくるかどちらかだが、この犬の場合、前者だったらしい。
義春の凄まじい気迫に圧された可能性も否定できないが。
短筒もどきをくわえたまま、走り出した。
「こら!待てえ!」
必死に追いかける義春。
しかし、本気になれば犬の方が速い。
しかも、運の悪いことに、はき慣れていないスカートが、脚に絡みついた。
全力で走っていただけに、ちょっとしたトラブル、それが、体勢を崩すには充分だった。
身体が前のめりになる。
ばたん
義春は顔面をもぐりこませるように、大地に倒れていた。
義春が、身体を起こした時には、既に、犬の姿は、どこにも見えない。
「・・・ふえ〜ん・・・」
最後の救いが、どこかへ飛んでいってしまった。
少し遅れて和規が駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か・・・」
「・・・どうしよう・・・オレ、もう元に戻れないのか・・・」
「一度、家に帰ろう・・・そっちの親とかにも相談なり説明した方がいいと思う。最悪の場合も考えてさ・・・」
両親にどう説明したものかと、いやがる義春を、和規は、どうにか説き伏せ、家まで送っていくことにした。
「あら、和規くん、こんにちわ。」
何度か、義春の家には遊びに行っているので、彼の母親とも顔見知りだ。
「あ、おばさん、こんにちわ。ちょっと、大変なことがあったんですけど・・・」
和規が、話を切り出そうとした時、母親が、彼の後ろに隠れるようにしていた義春に気づいた。
「あら、あんた、なんて、格好してるの?!」
その声は、明らかに、和規の後ろの義春に向けられていた。
さすが、母親、姿は変わっても、自分の息子と分かるのか。
これなら、説明も早そうだと、和規が安堵したとき。
「美春。あんた、また制服汚して。帰りにどっかで暴れてきたんでしょう。」
間違いなく、母親は、義春に向かって呼んだ。
美春と
「か、かあちゃん、おれ、その女のコになっちゃったんだけど・・・」
義春の説明に、母親の顔に怪訝なものが浮かぶ。
「なに、いってんの。美春、あんた、前から、男の子みたいなところあったけど、最初から女のコでしょ。」
和規と義春の表情が、え?というものに変わる。
「あ〜あ、また制服、こんなに汚しちゃって・・・洗濯するなら、ちゃんと洗い場においとくのよ。」
それだけいうと、母親は、今度は、和規の方へと向き直った。
「和規くん、もっとガンバってね。好きな男の子ができれば、あの子も、変わると想うから。」
「え、は、はい・・・」
義春(美春?)の母親に、変なことを期待され、困惑する和規。
「ほら、さっさと、着替えちゃいなさい。」
母親に急かしたてられるように、義春は、2階の自分の部屋へと向かった。
和規もそれを追う。
当然といっていいのだろうか。
その部屋もまた、如何にも女のコのものとしかいえないような部屋だった。
主に、パステル調のグリーンで統一された部屋。
壁に貼られた少年アイドルのポスター。
ベッドや本棚、そして床には、いくつものぬいぐるみが置かれ、窓には、白いレースのカーテン。
見苦しくない程度の乱雑さの混じった整理された部屋。
「こ、これが、おれの部屋・・・」
クローゼットを開ければ、そこには、明らかに女物の服が、ずらりと並んでいた。
下部に置かれた引き出しを開けると、そこには、白やらピンクやらスカイブルーやらの下着がぎっしりと。
義春は慌てて、引き出しを押し込んだ。
「一体、どういうことなんだ。身体だけじゃなく、母ちゃんは、まるで、オレが初めから女のコみたいなことをいうし、部屋は、完全に女のコのものだし。」
「・・・おれに分からないよ。」
義春が女のコになったこと自体、信じられないことなのだ。
それ以上のことなど、もはや、感覚が麻痺してしまう。
本棚に置かれた卒業アルバムを引き出してみる。
本来なら、義春が写っていた場所に彼の姿はなく、女子の場所に、義春の今の姿・・・美春の姿が映し出されていた。
名簿も、義春の名前が消え、代わりに三春の名前が入っていた。
「おれ、もしかして、本当に女のコだったのかなあ・・・」
今にも、泣き出してしまいそうな表情と口調で、呟く義春。
「な、なにいってんだよ。オレの記憶の中では、確かにお前は義春だ。男だった。」
「けど、お前だけなんだよ、そう想ってるの。多分。おれ、もしかして、二重人格とかで、美春って女のコが創った妄想か何かなのかも知れない・・・」
義春の瞳が潤み始めていた。
年頃の少女が瞳を潤ませている様をみては、和規は、かける言葉が見つからない。
だが、救いは意外な形で現れた。
義春の脳裏に、なにかがひらめく。
「!そうだ!」
義春が、自分が男の子だったと確信できる記憶がないかと必死で探した結果が、遂に見つかる。
自分は、立ちションをした記憶があるのだ。
女のコなら、その構造上、絶対に立ちションは、できない。
つまり、立ちションの記憶がある以上、義春としての記憶は、夢や妄想ではないのだ。
「よ、良かった・・・」
安堵の余り、義春の目から涙がこぼれ落ちる。
「ど、どうしたんだよ。義春。」
自分の目の前で、滝のように涙を流す少女の姿に、和規は、狼狽えるしかなかった。


涙を流すだけ流したことが、かえって気持ちをすっきりさせたのだろう。
どうにか、義春も落ち着いたようだった。
母親に言われたように、汚れた制服は洗濯する必要が感じられた。
何という気もなしに、セーラー服を脱ごうとしたその時、和規の視線に気づく。
食い入るようなその視線に、義春は、今の自分が、女のコになっていることを想い出した。
「あの・・・ちょっと外、出ててもらえないか・・・」
精神的には男はあるし、そばにいるのは親友ではあるが、今の自分が女のコである以上、その着替えというか裸というかを、見られることには、羞恥心が刺激される。
「あ、そうだな。悪い。」
どこか、惜しげな口調で応えると、名残惜しそうな哀愁を背中に漂わせて、和規は、部屋から出ていった。
「さて・・・と。」
ドアの鍵をかけ、カーテンを閉め、クローゼットを開ける。
幸いと言うべきか、スカートだけではなく、ジーンズなどのズボンの類も、それなりに揃っていた。
ここまで、セーラー服姿だったとはいえ、男としての意識と記憶が、スカートに対して、アレルギーのように羞恥心を引き起こしている。
できれば、スカートは勘弁願いたいと想ったのだが、なんと、クローゼットの中には、スカートやワンピースの類しかない。
しかも、そのいずれも、夏と言うことか、ノースリーブやセミスリーブ、あるいはミニなど、露出度の高いものばかりだ。
「とほほ・・・こんなの着なくっちゃならないのかよ・・・」
町で、キャミソールやノースリーブ姿の女性をみれば、つい、視線を追わせてしまう義春ではあったが、自分がそんな格好をすることになるとは想わなかった。
まさか、下着姿でいるわけにもいかず、やむなく義春は服を選び始めた。
流石にミニスカートは恥ずかしく、なるべく、スカート丈が長いものをということで、淡い水色のサマードレスを選んだ。
少々、フリルなどが装飾過剰なところがあったが、それは我慢できる。
不意に、クローゼットの扉の内側に付けられた鏡に目が向いた。
ゆったりとしたセーラー服の少女がそこに写っていた。
困ったような、驚いたような、喜んでいるような、どれとも断言できない不思議な表情で、じっとこちらを見ている。
義春は、そのままセーラー服に手をかけた。
ぐいっと勢いよく、Tシャツのように脱ぎ捨てる。
そうすると必然的に、その下に隠されていたブラジャーと、それに覆われた2つの膨らみが姿を現す。
精神的には、かなり落ち着いていたため、義春も、今度は、冷静(?)にそれを観察することができた。
それほど大きい・・・というわけでもないが、それでも、そこにオッパイがあることを実感させるには、充分だった。
薄いスカイブルーのブラの上から、そっと手を当ててみると、紛れもない柔らかさが伝わってくる。
続いて、スカートを脱ぎおろした。
脇のホックを外し、ファスナーをおろすと、スカートは、脚を擦りながら床に落ち、布の丘を造る。
今の義春の格好は、下着に、ソックスという、ある意味、某投稿写真雑誌の表紙を想わせるものがあった。
もっとも、今の義春には、鏡の大きさのせいで、腰の当たりまでしか、その姿を拝めないのだが、それでも、彼には充分だった。
鏡の前で、いろんなポーズをとってみたり、様々な表情してみせる。
同世代の女のコが、下着姿で、自分の思うままに、次々とポーズを変えていく様は、かなりそそるものがあったが、それが今の自分かと想うと、義春の心情は複雑だった。
下着姿に見とれていたため、着替えが終わるまで、少々時間がかかった。
乱れてしまった髪を、手櫛で、さっとなでつける。
普段着に着替えたせいか、セーラー服の時とは、ちょっと違う雰囲気の少女が、そこに在った。
サマードレスのためだろうか。
先ほどより、ずっと清楚な雰囲気の少女が、そこにあった。
「ふ〜ん、けっこう可愛いコなんだな、この美春ってコは・・・」
可愛いと言っても、その美春は、他ならぬ今の自分自身なのだが・・・
「お〜い、まだかあ?」
廊下から待ちくたびれたような和規の声が聞こえ、義春は、慌てて、ドアへと向かった。


「とにかく、今、お前の・・・義春の格好が、美春って女のコのもので、本来は、義春のいた状態に、美春という女のコの存在が代わりに入っていることだけは、間違いなさそうだな・・・」
和規の説明に、義春・・・美春になってしまった義春は、力無く頷いた。
一方、説明しながら、和規の視線は、つい、義春に食い入るようになっていた。
サマードレスに衣装替えしたせいか、ずいぶんと雰囲気が変わっていた。
薄目の布地のせいか、どこか透けるようなその感じに、ついつい、胸元へ視線が伸びてしまう。
それと、無意識の行動なのだろうが、義春は、さきほどのようにぺったんこ座りをしていた。
女性にしかできない、「W」を描くような脚の並び、そして、スカートを押さえるように、両腿の間に置かれた両手が、愛らしかった。
膝丈のスカートから、伸びたふくらはぎの白さが目に眩しい。
成長過程のため、どうしても太くなってしまいがちの女子高生としては細めといってもいいその脚を生で見た日には、いやでも、視線をそちらに向けてしまう。
「お、おい、そんなにジロジロみないでくれよ・・・」
和規の、明らかに女のコを見つめる男の子の視線に気づき、義春は、後ずさりしながら、声をかけた。
「あ、悪い・・・けど、お前、気づいてないかも知れないけど、けっこう、可愛い子だぞ。この美春ってコは。」
その件に関しては、義春も着替え中に確認済みだ。
「案外、もてるんじゃないか。お前・・・」
「よ、よしてくれよ!」


その後、学校はもちろん、親戚や、近所の人、果ては、通学路にある駄菓子屋までも、調べてまわったが、いずれも、義春という少年が存在していた証拠、痕跡は、跡形もなくなくなっていた。
どうやら、義春という存在を覚えているのは、和規1人だけらしい。
とにかく、あの銃が、変身そして周囲の突然の変化に関係していることだけは、間違いない。
犬というのは、ある程度テリトリーが決まっているはずだから、あの河原周辺を探していれば、いずれ、見つけだせる算段が大きい。
そう判断した2人は、放課後、休日を最大活用して、河原周辺を徹底的に探しまわった。
だが、保健所に捕まったのか、他の犬にテリトリーをとられてしまったのか、あの犬を見つけることは、遂にできなかった。
一方、女のコとして生活しなければならなくなった義春いや美春にも、新たな問題が浮上しはじめて来た。
和規の予想は大当たりで、どうやら、この美春という女のコ、学校では、そこそこ人気があるようなのだ。
3日に1度は、必ず下駄箱にラブレターが入っているし、授業が終わると、帰りに誘われることはしょっちゅうだ。
元は男だけに、相手の心情は分からないでもない美春だったが、それだけにまた男とは、友達を越える意味でつきあうつもりは毛頭もなかった。
それでも、最初は、相手に悪いと思い、そのたびに、丁寧にお断りをしていた美春だったが、それが半月も続くと、流石に嫌気がさしてくる。
それに気づいたのか、和規が1つの提案をしてきた。
「なあ、美春、おれのつきあう気ないか?」
「和規、おまえまで、何を言うんだよ!」
「ばか、ホントって意味じゃない。あくまでも、偽装のさ。相手がいると分かれば、他の男子も諦めざるを得ないだろ。」
「う〜ん、それもそうか・・・」
和規の言葉には、いくつかの道理があった。
美春は、現時点で既に和規と行動を共にすることが多く、傍目から見れば、実質的に恋人同士のように見える。
その都度、お断りをして、かえってトラブルにまきこまれるより、偽装でも恋人がいると言うことにしてしまって、諦めをつかせた方がいいだろう。
「よし、その手でいこう。けど、お前、あくまでも偽装だからな。」
「安心しろよ。おれだって、元のお前を知ってるんだぜ。」
苦笑するような和規の表情に、その通りだと想った美春だったが、1ヶ月後、それが甘い考えだったことを思いしることになった。


最初は、思った通りにうまくいった。
なんで、和規みたいなヤツと、という噂は多かったが、やがて既成事実が広まると共に、その噂も聞かれなくなり、ラブレターやお誘いは、ぱったんりと止んだ。
しかし、事態の沈静化に安堵したのもつかの間、美春は、新たな問題に直面することになった。
どうやら、和規は、自分に・・・美春に、本当に惚れているらしいのだ。
そう、自分は、確かに可愛いのだ。
和規が惚れたとしても、なんら不思議はない。
どこまで本気かは分からないが、どうみても、自分との高校恋愛ライフを満喫しているように見える。
会って話せば済むことを、わざわざ紙に書いて、美春の机の中に入れたり、一緒にお昼を食べようとしたり、何の用事がなくても、理由を付けて一緒にいようとする。
確かに、偽装だけに、それなりに恋人同士らしくする必要があるのだが、といって、ここまでされた日には、正直、鬱陶しい。
この様子では、いつ映画に誘われても仕方がない。
といって、ここでやめては、以前の、いやそれに輪をかけた、ラブレター&お誘い攻撃が復活することは目に見えていた。
このままでは、本当に、「お嫁さん」にされてしまいかねない。
「なんで・・・なんで、こうなるんだよー!」
ぺったんこ座りをしたまま、美春の声が、部屋の中に木霊した。


存在転換銃・・・
この銃・・・厳密には、魔法の品といってもよい、これを知るものは、極めて希といえるだろう。
製造者は不明だが、この銃には、撃たれた人間を、別の何かに変える・・・男を女に、大人を子供に、犬を猫に・・・力が備わっている。
そして、この銃が変えるのは、その姿形だけではない。
因果律さえも操作可能なのか、必要とあれば、周囲の人間の記憶や状況・・・そして、当人の記憶までも、その姿に相応しいものにしてしまうのだ。
ただし、最後の安全弁として、撃った当人だけは、その効果から免れるのだが。
そして、あの銃を加えて持ち去った犬が、ただの犬でないことは、予想するに容易いことだった。

果たして、美春が、元に戻れるのが先か?和規のラブラブ攻撃に屈するのが先か?
答えは誰も知らない。

「おい、誰も知らないって、作者もかよ!」
わっはっは、私のショートショートに、ちゃんとしたオチはない!(握り拳)
「なんて、不幸なおれ・・・なんで・・・なんで、こうなるんだよー!」
ぺったんこ座りをしたまま、美春の声が、木霊した。


To Be Continued?


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