ラッパ訓練

 


ラッパ訓練

自衛隊の一日は、ラッパに始まり、ラッパに終わる。
主要な時報の変わりに吹奏されるラッパ、それを吹くのがラッパ手で、そのラッパ手を訓練するのが、ラッパ訓練隊だ。
金管楽器なんて吹いたことのない隊員を、三ヶ月みっちり訓練して、しっかり吹けるようにしてくれる。

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1:マウスピース

 ラッパ訓練が始まると言うことで、中隊より三人行くことになる。
 別に音楽がどうの、という基準ではない。単に『抜けても大丈夫』だから選ばれただけだ。(汗)

 訓練する場は、映写講堂だった。午前中は学科を勉強し、午後は吹く。
 学科では、音楽の基礎知識を叩き込まれる。個人的には比較的好きだったので、すんなり行けたが、一部の人にはちと辛そうだった。
 そして、吹く方は、まだ最初と言うことで、マウスピースでひたすら練習。
 まずは、音を出すことに専念。音階は二の次だ。
 マウスピースをあてがえる口の形は、『い』と『え』の中間の形だ。
 これでまず、吹いてみるのだが、……最初はどうやっても音が出ない。
 でも、延々とやっていると、そのうち出るようになるのだから、不思議なものだ。

 しかし、吹奏楽器の哀しさか、唇が痛い。
 長らくやっていると、唇が痺れて吹けなくなってしまう。
 だから、吹いては休憩の繰り返しだ。そういう訳で、結構休憩が多かった。

 そして暫く。
 ある程度音と音階が出せるようになると、今度は曲だ。 

 

2:吹奏行進

 曲の訓練も、まず音出しをしっかり練習してから。
 そして、いよいよ曲の練習を開始した。

 が、やはりというか何というか、うまく吹けない。
 曲を憶えてない、というわけではない。唇が最後まで持たないのだ。

 吹いていると徐々に痺れてきて、音が出せなくなる。

 原因を色々考えてみたところ、どうやら自分の場合、テンポがバラバラ……後半になればなるほど、超高速になるらしい(汗)、そして、自分で自分についていけなくなり、自滅するという……

 そしてもうひとつ、音がでかすぎる……そうだ。
 一部の隊員から、『超音波』と揶揄されるほど、音がでかいらしい。

 というわけで、このあたりを気を付けてみると、結構持ちこたえるようになった。

 ある程度吹けるようになると、今度は行進しながらの吹奏だ。
 二組に分かれて、交互に行進曲を吹奏しながら行進するのだ。

 これが結構難しい。 
 歩きながらなので息が乱れやすく、テンポも狂いやすい。
 そして何より、曲が長くて唇がもたないのだ。

 これも、練習していくうちに少しずつ良くなって来たように思う。

 そして最後に……発表会の訓練だ。
 ラッパ訓練が終わるとき、駐屯地全隊員の前で、吹かなければならないのだ。
 はっきりいって、かなり恥ずかしい。
 とはいえ、やらなければならないのは仕方がない。自分が吹くことになったのは、『送迎の譜』という曲だ。

 まあ、曲自体は比較的簡単で良かったのだが、そうとうな引っ込み思案な性格で、結構苦労した。恥ずかしさに、声がうまく出なかったりで、他の隊員にずいぶん迷惑をかけたように思う。

 

 その後、何度か実際に吹く機会に恵まれた。

 失敗したとき(一回曲を間違えたことあり…激汗)は死ぬほど恥ずかしかったが、上手く吹けた時の充実感は何物にも代え難い。
 あとで、上手かったよと、声をかけられるのは本当に嬉しい。

 そのときばかりは、やっていて良かったな、と思えるのだ。

 


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