隣の蘭丸くん

作:真沙美 さん


その朝。

華森家は、長男、蘭丸くんの叫び声とともに始まりました。

高校1年の男子の声とは思えない 甲高い叫び声だったと近所の人は語っています。

わたしは華森さん宅とは近所で、かなり頻繁に行き来している間柄の主婦ですが、奥さんから、叫び声が起こって約10分後…電話でたたき起こされたんですのよ。はい。

近所だし、知ってる間柄だから いいや〜、と思って、化粧もせず、パジャマにガウンはおって、あわてて華森さんの家に行ったんですよ。

ま〜…家に入って わたしもビックリ!

とーってもカワイらしい 年頃の女の子が、素裸でメソメソ泣いているんですもの。。

華森さんちの ご主人、奥さん、OLしてるお姉さんが、困り果てた顔して立ってますでしょ?

わたし、その時はてっきり、長男の蘭丸くんが、どこかの娘サンを、、その、、

連れ込んじゃって、なんかのトラブルがあって、、もしくは、お手洗いにでも行った時に、ご家族に見つかったという、アララ。。な情況に違いないわ、と、思ったんですよ。

子供でも高校生ぐらいになりますと、親としても、もしもの覚悟が必要だって、TVでも云ってますわよね。

で、でも、、

それが、違ったんですね。。はい。

ホント、にわかには信じられない事でしたよねえ。

その、泣いている娘さんが、蘭丸くん本人だって言うのですから、あなた!



わたしも、説明を聞いてショックでしたけど、ご家族はさぞや、

いえ、

蘭丸くん のショックは想像もつかないですよね〜。。

なんかですね、前の日まではなんでもなかったんですって。蘭丸くんも。

ただ学校から帰ってきてから、昼寝をして晩御飯の時間になっても蘭丸くん、起きてこないので、様子を見に奥さんが行ったんですって。

そしたら、『体が火照ってダルイから、ゴハンいらない』って蘭丸くん云うんで。

蘭丸くんって、確かに、オトコのコとしては華奢で、小さい時から病気ばかりしてる お子さんだったですからね。奥さんは、一晩たって 具合が悪いようなら、病院にでも連れて行こうと思っていたそうなんですよ。はい。。

しかし、、こんなことあるんですかねえ?

華奢とはいえ、立派な高校生のオトコのコが、一夜にして、女のコの体になっちゃうなんてね。。

で、でもですね。。

コレが、我が家のサッカーばっかりして全然勉強しない、大食らいの中学生の息子が、突然女になっちゃったら、、なんて思うと、お、思わずウゲゲっ!ですけどね、あはは!。。

なんて云うんでしょーねー。。

なんか、ぜったいなんかの突然変異に違いない異常な現象なんでしょうけど、、

女のコになっちゃって、シクシク泣いている 蘭丸くんって、

『あら〜、かわいい〜!』 って感じで、全然違和感ないんですのよ。はい。

元々 細面で おんな顔の お子さんでしたものね。。



と、とにかく、、蘭丸くんを わたしら四人で囲んで、気まずい沈黙だったんですが、、

「…、で、どーしましょう?奥様。」って、華森さんの 奥さんが云われて。

やっぱ、こーゆー時って、女のほうが現実適応能力アルんですわね。あはは。

いつまでも 裸のまま 置いて置けないので、とりあえず蘭丸くん。

何か着せましょう という事になったのですけどね。

考えてみれば、蘭丸くんには酷なことだったかも知れませんわねえ。。

とりあえず、お姉さんの トレーナーとスエットパンツ着せるのはまだ良かったんですけどね、、その、やっぱり、元は蘭丸くんだとわかってはいても、今 ココにいる蘭丸くんは、完全に女のコの体してる蘭丸くんじゃないですか。。だから。。

差し出されたショーツは当然 女物で、、ようやく泣きやみ出した 蘭丸くん、またウエンウエン泣き始めちゃって。。まあ、気持ちもわかりますよねえ。オトコの子の、その、シンボルなくなっちゃって、履かなきゃいけない下着が女物なんですからね。

でも、華森さん家って、合理主義なんでしょうか?奥さんとお姉さんが、いつまでもワガママ云って手こずらすな!とばかりに、強引に履かせちゃったんですよ。あはは。あら?不謹慎ですね わたし。。



そのムリヤリ女装(??)させられた蘭丸くん、とっても可愛らしいんですのよ。これが!

逆にいえば、今 蘭丸くんを初めて見た人だったら、この蘭丸くんが、ホントはオトコのコだったなんて事の方が想像できないと思いますわ。はい。

そのときなんですが、華森さんの奥さん、わたしに小声で、云ったんですよ。

『やっぱり、ブラジャーさせなきゃ いけませんわよね?』って。

トレーナー越しにも、いかにも高校生らしいって感じの、Bカップくらいですかねえ?おっぱいの盛りあがりがクッキリしてて、、蘭丸くんには相当混乱あるでしょうけど、ずっとプルンプルンさせているわけにもいかないのは一目瞭然で、、

わたしと 華森さんの奥さんとで思わず ため息ついちゃったです。はい。



その後も いろいろタイヘンだったようですよ。まあ、よそ様の ご家庭のことですから、あんまりいい加減な事は云えませんし、全て知っている事も申し上げられないのですがね。。

学校も転校しました 蘭丸くん。ええ、私立の女子高に。片道一時間の地元の子は行かない学校です。病院の方も ずいぶん苦心して、なんで女性化しちゃったか懸命に研究したそうなんですが、、今のところマダ原因もナニもわからないそうなんですのよ。ええ。。

せめてもの幸いは、主治医の先生が、患者のプライバシーと人権に、とても理解があるお医者サンだったことが良かったですよねえ。実験台とか、世間の見世物みたいにならずにすんだのはなによりですわよねえ 蘭丸くん。

ただ、、戸籍とか どうするんでしょーねえ?今後が心配といえば心配。。



え?蘭丸くん 素直に女のコというものを 受け入れられたのか ですって?

まー、それにはイロイロ 本人とご家族の苦労がおありになったようですよ。

でも、元々と云いますかね、

昔の、蘭丸くんが子供の頃のアルバム見せてもらった事があるんですけどね、

『蘭丸』という名前自体が一種の中性的な名前ですよね?

その名前の通り というか、、赤ちゃんの頃から、小学校に上がるまで蘭丸くん、

まあ、ご家族の ご愛嬌なんでしょうけど、

スカート履かせられてたり、髪の毛伸ばして、みつ編みにさせられたりして。

まあ、当人もマダ、きちんとした性の意識ってナイ年齢ですからね。全然そーゆう事に抵抗もなく、キレイなリボンとか買ってもらってキャッキャ喜ぶ お子さんだったそうなんですよ欄丸くん。でも、誤解なさらないでね。蘭丸くん けっしてオカマとかではないんですよ。絶対。ええ。

中学時代はオンナの子と手をつないで歩いていたりしたの見ましたし わたし。

ウチのばか息子と、やらしい本を隠れて見てたのも知ってます。あはは。

ええ、ごくごく自然な、ごく普通の 男の子でしたよ。誓って。

でも、こんな あり得るべからぬ事が自分の身に起きて、

タイヘンですわよ そりゃ。。

ある意味でいうなら、年頃で、欲望の対象である筈の オンナの子 というものに、

あろうことか 自分が変身しちゃったんですからねえ。。

オトコの意識のまま そのオトコの欲望の対象となる体が自分についてるんですからね。考えて見ればストレス大きいでしょうね。。

そうそう、ブラの件でも 苦労しましたよ。はい。。。

本人かたくなで けっこー。

まあ、わかる気もしますね。わたしら元々オンナでさえ、初めてのブラってときは、いまだにアノ恥かしさ というのを覚えてますものね。

それでも ご家族がいろいろ考えてくれて、おっかぶり式の ホラ、スポーツブラってやつ アルじゃないですか?ソレからスタートさせたんですよ。はい。

最近になって よおやっと、後ホックの、カップつきのブラに抵抗なくなったって 華森さんの 奥さん言ってましたネ。なんせ成長期でしょ、蘭丸くんも。ドンドン胸も成長してるんですよ。ウチの息子なんて、モウ ドキマギしてますよ。あはは。ウエストなんかも細いし、お尻も なんか、まん丸くなってきてて、ホント、元これが オトコの子だなってゼッタイに思えませんよ。

え?生理ですか?…うーん、、それはさすがに、いくら親しい わたしでもつっこんでは聞けない事ですよねえ。。でも、こないだ蘭丸くん。セーラー服でね、家に駆け込んでるの見たんですよ わたし。それでね、ウチの二階から 華森さん家の洗濯機の置いてある洗い場の部屋の一角が見下ろせるんですよ。ええ。ソコの洗い場でね、蘭丸くん、憂鬱な顔をして、ゴシゴシなんかを手洗いしてましたから、わたし自身にも経験ありますしね。女性だったら必ず一回はありますよね?アレは、ちゃんと 来てるんですよねえ。。多分 生理も。



でもですね。。

蘭丸くんの気持ちになったら、とても無責任な事云えないし、、ご家族のご苦労も考えないとねえ、、。でも、なんか、あえて無責任に云うとですよ。

蘭丸くん、オンナの子になったのって、なんか、、

かえって良かったんではないでしょうかねえ??

外見的にも、華奢なオトコの子っていうより、ごくごく自然な オンナの子らしい女性に見えますし、全然違和感無いしね。いえ、それよかですね、元々、弱気というか、おとなしい、手のかからない お子さんだったんですよ蘭丸くん。だから、かえって元からオンナだった子よりも、おとなしい とっても控えめな、最近じゃ珍しい 清純なタイプの子になっちゃってね。あはは!オンナ自体ってズブトイんですよね。元々からの方は。

こないだもですね、わたしが自宅前 掃き掃除してたら 後ろから

『おばさん、おはようございまーす!』

って、蘭丸くん。ニコっと笑って挨拶したんですよ。いい子です。

セーラー服姿が とっても良くにあってて、カバンを持って 登校する姿を見送ったんですが、そのとき わたしは、ご家族には 申し訳ないかも知れないのですけどね、

『あー 良かったわねー。。蘭丸くん オンナの子に なれて。。』

って 思わず ほんわかした気分になっちゃいましたねー。

蘭丸くんも 相当悩んだとは思いますよ。。でも、

きっと、女性になったことを受け入れ、喜びを見出している気持ちが 多分に蘭丸くんにはアルと思いますよ。なによりそれが自然ですよ。今の 蘭丸くん なればこそですけど。

体つき だけではなく、精神というか、心もダンダンと 女性としてのモノに変わってきている微妙な時期なんでしょうねえ。。

昔から ご近所で、お付き合いも深い 近所の身としては、このまま 蘭丸くんが

『女性』として素敵に成長するのを あたかかく見守ってあげたいですね。ホントに。



というわけなんですよ。おわかりいただけましたか?奥様。

…えっ!?

何ですって!

おたくの 坊ちゃんも「オンナの子」に

ひ、一晩で変わっちゃったっていうんですの??

そ、それって…。。

ウチの息子、そ、そー云えば、昨日の晩から『気分が悪い』って寝こんでるけど、、、

だ、ダイジョウブかしら???

                        おわり




【作者コメント】
華森蘭丸くん の みかん飴さんのすてきなイラストから読者のみなさんが抱くイメージというものを徒にコワしたくなかったので、あえて本人のキャラにはあまり触れずに、近所のひとの証言というスタイルをとってみました。



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