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アンカー・欄丸クン
作:奈落 (Naotoshi)



 僕の名前は「華森信長」。
 名前負けしていると付いたあだ名が「欄丸」。
 
 
「欄丸クン」
 声を掛けてきたのは学年イチの才女、織田裕子。
 その豪快は気性から「トノ(殿)」と呼ばれている。
「君は運動神経ダケは良かったよね?」
「運動神経ダケとはなんだよ、ダケとは。」
「じゃあ、アンカーを頼んだよ。」
 
 今はHR。
 議題は今度の体育祭の出場メンバーを決めている。
 僕が選ばれたのは男女混合仮装リレーという種目だった。
 その後も詳細についての打ち合わせが続いたが、僕はそれを上の空で聞いていた。
 
「じゃあ、一緒に来て。」
 トノに声を掛けられ再び現実世界に引き戻される。
 既に放課後になっていた。
 彼女に連れられて来たのは文化部部室棟だった。
 2階建ての部室棟は1階の広いスタジオスペースを含む大部分を演劇部が占有している。
 2階には小部屋が連なり、文芸部や写真部の部室となっている。
 (ちなみに屋上にはクモの巣のようなアンテナの中央に無線部のプレハブがあり、北の端に天文部のドームがそそり立っている)
 僕が連れて来られたのは部室棟2階の奥、非常階段の脇にある特撮研の部室だった。
「連れてきたわよ」
 扉を開けると特撮研の部員が一斉に僕を見た。
 中には数人、同じクラスで見知った顔もある。
「素材的には問題ないな。」
 がやがやとそんな事を言ってみんな作業に戻っていった。
「トノ。これで良いか?」
 奥からクラスの新田義夫がやってきて、手にしたモノをトノに渡した。
 彼女の手が白い紐を手に掛けると、その姿がはっきりと目に入る。
(ブラジャー?)
 真っ白なブラジャーがトノの手に吊る下げられていた。
「OK。欄丸クン、これ着けてみて。」
「えっ?これを僕が着けるの?」
「決まってるでしょ。仮装リレーの最後はウェディングドレスに決まったでしょ?アンカーはあなた。だから、あなたがウェディングドレスを着るの。で、その時胸がないと奇怪しいから特撮研にコレを作ってもらったの。」
 良く見ると胸を覆う所に何か入っている。
「とにかく、コレを着けて走ってみて。」
「不具合があれば特撮研が総力をあげて改良するからね。」
「ああ、良かったら素肌に着けてくれないかな。肌色の調整をしたいんでね。本番の時には誰にも偽物だとは判らないようにしてやるから。」
「恥ずかしかったら少しメイクしてあげようか?」
「そこの非常階段を使えば誰にも見られずに外に出られるよ。」
 
 僕は裏門を抜け、学校の裏に広がる住宅地の中を走っていた。
 胸には特撮研特製バスト入りブラジャーを着け、ジャージの下にはブルマーを穿かされていた。
 胸の重みも少し走ればバランスを取れるようになった。
 が、胸の揺れはどうにも納まらない。
「スポーツブラに出来ないの?」
 と、トノが言っていたが、特撮研の連中はドレスを付けた時の線がどうのと言っていた。
 僕は汗はあまりかかない方なので、汗で接着面がどうこうなるという心配はなさそうだ。
 が、しばらく走っているうちに辺りを黒雲が覆ってきた。
(やばい!)と思って引き返そうとしたとたん土砂降りの雨になった。
 既にずぶ濡れになってしまったので雨宿りもせずに学校に戻った。
 
 非常階段の所でトノがタオルを持って待っていてくれた。
 顔を拭き、髪の毛の水分をぬぐいながら特撮研の部室に入る。
 ジャージの上着を脱ぐと、みんなが僕の方を見ていた。
 Tシャツにブラジャーの線がくっきりと浮いていた。
 置いておいた学生服を引き寄せ、濡れたTシャツを脱いだ。
「おお〜〜っ!!」
 みんなの視線が僕に突き刺さる。
「キャッ!!」
 僕は何故か脱いだTシャツを胸に当て、その場にしゃがみこんでしまっていた。
 
 
 
「ねえ…」
 体育祭の当日、僕は再度トノに聞いた。
「これ、やっぱり着けなきゃダメ…?」
「だめ!!」
 あっさりと返される。
 第1走者のトノはタキシードに身を包んでいる。
 仕方なく僕は特撮研特製ブラジャーを着け、ウェディングドレスを纏った。
 
 
 
 優勝記念の写真には新婚カップルを中央に動物や妖怪、バニースーツやメイド服の仮装が取り囲んでいる。
「ランちゃん。おはよう。」
 トノに声を掛けられ僕は写真を鞄にしまった。
 あれから僕のあだ名は「欄丸」から「ランちゃん」に替わった。
「走ろう。遅刻するわよ。」
「うん。」
 僕はトノの後に続いて、制服のスカートを翻した。

−了−




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