「強襲!ピンクハウス」

作・真城 悠


 どういうことなんだ…

 郷田はあせっていた。

 打ち合わせ通りまらここで合図があるはずなのに…姿すら見せないなんて…しくじったか?

 そこはとある地方銀行だった。

 仕方が無い。

 郷田はその大きな荷物を掴むと外に出た。

 

 

 近くにある喫茶店に入る。

 なかなかお洒落な雰囲気だ。

 郷田のようなゴツイ男には似合わない雰囲気だが、郷田とてそこまで挙動不審なわけではない。適当にコーヒーを頼んでおく。

 携帯電話を取り出してかける。

 第一待機点の山田…

 出ない。

 くそっ!一体どうなってるんだ!?

 現場に行くか?

 いや、出来れば目立ちたくない。しかし、完璧なタイムスケジュールがあってこその計画だ。ここで遅らせる訳には行かないが…

 しばらくその番号をコールし続けながら考える郷田。

 そういえばこいつらは変装するとか言ってたな…

 諦めて第二待機点の川口に電話する。繋がった!

「おい!何してんだ!」

「あ、郷田さん!?」

「「あ」じゃねえよこのボケ!山田と連絡が付かねえんだ!」

「こっちもさ!何が起こってるんだかさっぱり…とにかくそっちに行くから!」

「いいから!持ち場を離れるな!」

「今更無理だよ!今日の計画は諦めようや」

「一年間も準備してきたんだぞ!高飛び用の飛行機まで手配してあるんだ!」

「…ちょっと待てよ。そこって「PH」って名前の喫茶店だよな?」

「そうだが…それが何だ?」

「そこには奥山がいるはずなんだけど…とにかくそっちに行くから!」

 切れた。

 何だ?奥山がいるって?

 きょろきょろと店内を見まわす郷田。しかし店内は女の子ばかりでむさくるしい男など、影も形も無い。

 郷田は第三待機点の神谷に電話する。

「…もしもし?」

「お!神谷か!やっと捕まった」

「どうしたんですか?ボス?計画の実行は?」

「それどころじゃねえんだ!お前、山田を知らねえか?」

「山田…ですか?」

「そうだ!」

「いや…今日はまだ会ってないですけど…何だお前らは」

「…ん?どうした?おい!」

「な、なんだそれは?おい、よせよ。俺にはそんな趣味は無い」

「どうしたんだ!?おい!」

「わ、わああああ!」

 切れる。

「おい!神谷!おおい!」

 無駄とは知りつつも大声を挙げる郷田。

 店内の、騒がしく喋っていた女の子達が郷田の方を一瞬注目するが、すぐにおしゃべりに戻って行く。

 な、何何だ?一体?

 と、目の前に一人の女の子が立っている。

「何だよ?何か、文句あるのか?」

 郷田は凄んだ。

 戸惑っている様な表情の女の子。可愛い子だ。三つ編みにした髪に、ピンク色の過剰な装飾に彩られた体型の出ない服を着ている。

「あ、あの…」

 その子は何かを語りかけようとしているのだが、言葉にならないらしい。

 と、郷田の目にその子の唇の下の小さなほくろが目に入ってくる。そう言えば山田もこのあたりにほくろがあったな。

 と、携帯電話が鳴る。

 郷田はその子から目を離さずに電話に出る。

「はい郷田」

「郷田さん」

「川口か!?」

「郷田さん!やばいよ!すぐそこから離れて!」

「何だか知らねえが妙なことになってんだよ!神谷の連絡が途絶えて」

「銀行強盗は中止だ!全部おまわりに筒抜けなんだって!」

「何い?」

「その「PH」って店はこっちの情報じゃサツだらけだ!」

 見渡す郷田。しかし、今目の前にいる子も含めて、一様に同じファッションに身を包んだ女の子しかいない。私服警官という雰囲気ではない。

「そうか…?そうでもないように見えるが…」

「あいつだよあいつ!鮫島だ!頬に傷がついている奴!」

 その瞬間、その携帯電話が取り上げられる。

「な、何するんだ!?」

 気が付くと、周りはピンク色の服の女の子にぐるりと囲まれている。その不気味さに歴戦の猛者であるはずの郷田も流石に一抹の恐怖を覚える。

「どうでもいいじゃない。こんなの」

 といって、ぽいと携帯を放り投げるリーダー格らしい少女。

 と、その中に、頬に傷のある少女を認める郷田。

 嫌な予感が背筋を這い上がる。

「どけ!ここを出る!」

 しかし、少女の集団が壁を作ってそれを阻む。

「どけと言ってるんだ!」

 乱暴にぐいぐい押す郷田。

 と、そのリーダー格が不敵に笑う。

「乱暴ねえ…そんな子は…こうよ!」

 ぴたり、と静まる集団。そして一斉にくすくす笑い始める。

 もう発狂寸前の恐怖だった。

「…ん?」

 何やら頭がむずむずしてくる。

 頭からさらさらと何かが流れ落ちてくる。

 それを手に取る郷田。

「な、何だこりゃ?」

 それは頭髪だった。黒々とした光沢を放つ美しい黒髪である。

 と、今度は胸がむずむずしてくる。

 思わず自分の身体を見下ろす。

「ああ!?」

 何と、そこには乳房と言うほかは無い膨らみが見る見るうちに形成されていくではないか!

 周囲の少女たちはケラケラと笑い始める。

「なかなか可愛いじゃない」

「お、俺に何を…」

 そう言っている内にも郷田の身体は縮んで行く。その筋肉質の身体はふっくらとやわらかな女性的な身体に変貌していく。同時にそのほっそりとした身体では目立つヒップが盛り上がり、すっかり小柄で清楚な少女が出来あがる。

「そ…そんな…」

 か細くなってしまたその手を見ながら郷田…だった少女は言う。

「それにしてもイケてない格好よねえ」

「そうよね」

「ダサいわ」

 何やらじりじりとにじり寄ってくる面々。

「あ…あああ」

「脱がしちゃえ!」

 一斉に襲いかかる少女たち。

「きゃあああー!」

 不随意に声が出ていた。

 すっかり小柄な少女となってしまった郷田は、ピラニアの群れに襲われる様に、その衣服を剥ぎ取られて行く。最初の内はちゃんと脱がせようとしていたらしい少女たちも、まどろっこしくなったのか、ビリビリと破り始める。

「た、助けてええー!」

 一糸まとわぬ生まれたままの姿…だったのは一瞬のことで、次々に郷田…だった少女に衣服が着せられて行く。

 パンティが穿かされる。

「あ」

 胸にブラジャーが押し付けられ、背中でカチリと止められる。

「ああ…」

 そして、目の前にあのピンク色の可愛い服が差し出された。

「い、いや…いやああああー」

 

 

 がたり、とドアが空けられ、川口が入ってくる。

 きょろきょろと店内を見まわす。

 しかし、知った顔は誰一人としていない。

「おにいさん」

 そこには三つ編みの可愛らしい女の子がいる。店内の全ての子がそうであるように、ピンク色の服に身を包んでいる。

「あたしたちと一緒に…おしゃれしない?」

 店内の少女達が一斉に立ちあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 いやはや何だかモダンホラーみたいなことになってしまいました。真城です。

 いや、タイトルが「強襲!ピンクハウス」だったので、ピンクハウスの女の子たちに強襲されてピンキー(ピンクハウス愛好者)の女の子にされてしまう…という話にした…という、ただそれだけなんですけどね…。

 それにしてもこんな集団の女の子に襲われたらさぞかし怖いでしょうねえ。自分で書いてて思いました。やっぱりアイドルとかにはなるもんじゃないですね。

 ちなみにこの喫茶店は、入るとピンキーにされてしまうという恐怖の店で、今も少しずつ犠牲者を増やしています。都内のどこかにあるらしいので、入ってみるといいでしょう。嘘ですけど。