「Machine Angel」

作・真城 悠


 そのマシンは人気だった。

 「バトリング」と俗に呼ばれるその戦闘マシンを駆使した模擬戦闘。それは戦争そのものでは無かったが、新兵の訓練にはうってつけであった。

 創生記に活躍した十数機。それらは既に現役を退いていたが、今もその姿を留めたまま各施設に飾られていた。

 中でも、各施設が争って奪い合った一台のマシンがある。その機体は現役時代も、その華奢な風体とは裏腹に爆発的な人気を誇った。

 それは少々異様な人気だった。

 特に戦闘能力が高い訳でもない。むしろその装甲の薄さ、馬力の少なさ、格闘戦におけるもろさなど、問題は山積であった。それどころか、この機体は死亡事故すら起こしている。

 とある将来有望な女性士官が搭乗した折、不幸にも池で撹坐し、救助も間に合わずに溺死してしまったのだ。

 必死のレストアの甲斐あって、機体だけは救うことが出来たものの、以後この機は「呪われたマシン」と呼ばれる様になる。

 ところが、皮肉なことにこの機体のカルト的人気が盛り上がり始めるのはこの事故の後である。

 重ね重ね不可解なのは、これだけの人気機体ながらその勝率は最下位に近いのである。もともとの性能が不利である上、パイロットの多くが起動後混乱を来たし、行動不能になってしまうことすら多かった。

 パイロットに「どうしてこの機体に好んで搭乗するのか?」と意見を求めた資料が残っている。しかし、明確な原因は結局わからず仕舞いだった。

 ここに興味深いデータがある。共に成績優秀、将来を嘱望された一流パイロットである。

 ピエトロ・フランカー。

 「全ての機体を制覇する」と豪語する彼は、周囲の反対を押し切って当然の如くこの「呪われたマシン」にも搭乗した。やはり起動直後に混乱、停止してしまう。

 その後彼は執り憑かれた様にこの機体に乗り続け、その全ての試合で敗北を記録し続ける。

 ある日、この機体と共に逃亡を図り、逮捕される。その後「不名誉除隊」の処分が下されている。現在の消息は不明。一説には彼がコクピットで発見された折、パイロットスーツ以外のものに身を包んでいたとも言われている。が、資料はこれ以上の事実を語ってくれない。

 マクダネル・メルダース。

 彼こそ歴史上最大の犠牲者と呼ばれている。なんと彼の軍歴記録は一切資料として残っていない。

 が、しかし最高機密資料中の「アイズ・オンリー」カテゴリの中にその記述を発見した。

 「アイズ・オンリー」とはその名の通り「目、のみ」という意味。その閲覧は係官の監視下で行われ、撮影も書き写しも禁止される。

 この記録が事実であるとするなら、彼が打ちたてた限定期間における同一機体への連続搭乗は史上最高となる。

 結局その地位を利用して使用に入手するべく尽力した形跡があるが、それは適わなかった様である。

 ある時行われた統合参謀本部による抜き打ち査察を最後に彼の軍歴は途絶える。「不名誉な除隊」ですらない。彼は「いなかったこと」にされたのである。少なくとも記録の上では。

 しかし、人々の記憶まで操作出来るわけではない。

 その極秘資料によると、彼はコクピットで発見された時、やはりパイロットスーツ姿では無かった。資料の記述が良く分かりにくいのだが、要するに「バニーガール」と呼ばれる一種のホステスが身に付ける扇情的な衣装に身を包んでいたと言う。それどころかコクピット内には女学生の制服など、女性の衣装が大量に持ちこまれていたと言う。これが本当ならなるほど「不名誉な除隊」以上の処分もむべなるかな、である。

 その後の彼の消息はやはり不明であるが、一説によると歓楽街で彼にそっくりな女性が目撃されたらしい。この話を聞かされた同僚は一笑に付した、と言われる。

 その後、現役を退いた機体は軍関係者、特に幹部の間で取り合いになった。その後民間に払い下げになったという噂もあるが、正確なことは誰にも分からない。数年前に闇市場で「発見された」との報告がなされたが、それは巧妙に作られた贋作であることが判明。ある程度信頼の置けるソースからの情報を元に類推するに「贋作」は最低でも数十機は存在すると言われている。

 現在、博物館に装甲版の一部が現存しているが、これが唯一、公式に「本物」とされている部分である。

 他に、ある砂漠で廃棄されていた同型機が「本物」では無いかといわれている。この機体は発見された時にはコクピット部分がえぐりとられており、その行方は遥として知れない。

 果たしてそのコクピットに乗ったまま起動した時、パイロットに何が起こったのか?「本物」が失われた今、それを知る術は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 かなりの異色編です。肝腎のところをぼかす様なことになってますが、一種の「想像力萌え」ですな。もっと「資料っぽい記述」にしても良かったんでしょうけど今回はここまで。田中芳樹の「銀河英雄伝説」の八巻以降、とか言うと言い過ぎですが、この路線は未来があるんではないでしょうか。

 実はこれは「前振り」でここから短編が始まる予定だったのですが、ここで止めるのも面白いな、と思いましたのでここまで。いや、別に面倒くさくなったからではありませんよ(爆)。

 いやー、ちゃんと「バーチャロン」調べないといけないなあ…。「アーマード・コア」の設定に準拠しているらしい#8「ロッカールームのエトランゼ」でも結局力技で押し切ってしまいましたが、今回も同様。これからは資料にも金を使わないといけないなあ…

 

 


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