「こたつ」
作・水谷秋夫
男はこたつでみかんを食べながらテレビの歌番組を見ていた。
「冬はやっぱりこたつだよな」
テレビの画面の中は一面の雪であった。その雪をバックに少女アイドル歌手が歌っていた。札幌からの中継だそうだ。
「よくまあ、あんな寒いところで仕事するよな。名前、なんて言ったっけ。雪森つらら、か。あれ? そんな名前の歌手がガキの頃にいたような」
しかし、彼はふと生じた疑問に答えを出す前に、あっさりとそれを忘れ去った。みかんが無くなったのだ。
「ううーっ。出たくないっ。しかしトイレにも行きたいし」
十分ほど、男は逡巡していたが、思い切ってこたつを出た。トイレを出て、山ほどのみかんを抱えて戻ってきたときには、歌番組は終わってニュース番組に切り替わっていた。
「なんだ、ニュースか」
彼は独身である。女性アイドルをテレビで見るのを楽しみにしているのだが、ニュースは好きではない。しかし、面倒くさがりの彼は画面を切り替えることもなく、ニュースをBGMにまたみかんを剥き始めた。
「冬はみかんがあったら、御飯いらないよな」
ばくばくとみかんを食べ続ける。テレビはニュース映像を流していた。
「次のニュースです。○○県○○郡で販売されているみかんに、重大な環境ホルモンが残留していることが明らかになりました」
(あれ? 俺が箱買いしたみかんも○○県産だと思ったが)
「この環境ホルモンはみかん業界では一般に使用されている○○という農薬に含まれている○○という成分が、○○郡○○町の土壌に多く含まれている○○と化学的に結合したもので……」
(偶然に偶然が重なって、っていう話だな)
「○○大学の○○教授によると、通常の動物実験では何も起きないが、特定の条件下におくと劇的に作用するということです」
○○大学○○教授の顔が映る。
「室温で通常の体温のラットではなにもおきません。ただし、暖気の中でラットの下肢を暖め、通常よりも若干高い体温にし、長時間この物質を大量摂取させた上で、麻酔をかけて眠らせると、劇的に作用します」
(あ、みかんで腹一杯になっちゃった。なんだか眠くなってきたな)
「恐らく、血液の流れ具合の微妙な差が、ラットへの作用に大きく働いていると考えられます」
(眠い。眠い。ぐう……)
「こちらを見て下さい。雄のラットが数時間で完全に雌化しています」
(ぐう……)
「人間だと、そうですな。御飯がわりにみかんを食べるようなレベルだと、危ないですな。そこまでみかんを食べる人もあまりいないでしょうが」
(……)
「この報告を受け、○○県農協では、○○町のみかんの出荷を全て停止し、市場から回収することを決定しました」
(……)
「なっ……、なんだぁっ!」
あとがき
水谷です。
すみません。ミニ絵のほうで話を作っちゃいました。みかん業界の方、申し訳ありません。でも本当にこんな話があったら劇的に売れるかも。