T.B.N.ゲスト出演・庵野監督の言葉全文


『林原めぐみの東京ヴギーナイト』
TBSラジオ[954kHz]・土曜日深夜25:00〜25:30他

96年4月28日放送分

林原めぐみさん(以下M)さて、エヴァンゲリオンスペシャルということで今夜はラスト週になりました。庵野秀明監督です。どうもぅー。
庵野監督(以下A):どうもー。
Mという感じですね。まあ、3週に渡ってやってきましたけども。
A:もう、これで終わりね。
M一応ね、一応。まあ、あと、ほらビデオがでた後とかあるかも知れませんけど。
A:そうね、また呼んでね。
Mとりあえずは、まあ、ね。うん。という感じなんですが、いろいろお便りがきましたね。まあ、基本的に皆さん、前向きなお便りが多く、あの、庵野さんも戸惑っておりました。
A:そうなんですよ。(笑)
Mねえ、もっとこうなんか、「わー」ていう、なんか来るかなと思ったらしいんですけど。
A:ん、なんか、ホロっとくる方が多くてね、なんかちょっとジンとしてます。
Mああ、いいことじゃん。やったわね、みんな、みんなの勝ちよ。みんなの。(笑)
A:俺にまだそんな優しい心が残っていたとは。
Mそうよ、残っていたからこそ、そういう作品を作ったんじゃないですか。何を言う。茨城県のですね・・・んーとこれは本名いいのかな、タナカミチコちゃん。
「林原さん、庵野監督こんばんは。唐突ですが、質問をさせて下さい。エヴァンゲリオンの弐拾六話って、写真やペン書きの絵を使ったシーンが多かったように思いましたが、あれはすべて意図的にやったことなのでしょうか。効果をねらったように感じられるところもありましたが、製作が遅れたんだと受け取った声を聞くので、そこんとこ教えて下さい。」
ということなんですけど、どうでしょう。

A:えっとですね、あの、セルアニメーション至上主義っていうのかな。セルアニメ以外はアニメにあらず、っていう考えが嫌だったんですよ。
Mあ、もう、もうはじまっちゃった。(笑)
そうなんだ。

A:そうそうそう。
だから、セルで描かれているもの以外はアニメーションではないみたいなね、それ以外はキャラクターとして認めない。というところが、おかしいと思うんすよ。表現というのは自由なはずだから、まあ、ただセルというのも記号の一つだというところで、線画だってなんか、アニメーションにはなるんすよ。線だけでも十分。
Mん、要するに色がついてないということだよね。
A:そう。
10年以上前に流行ったディスアニメーションというのが、ブーム、まあ小さいブームになったときに、要するにね、あの計算用紙に、レポート用紙にね、なんかこう、ペンだけで描いて、それ、あのタップっていうものも付けずに、あのそれをただ8ミリで撮って、それで動かしてみるという、そんだけで非常に快感があったんだよね。セルっていうものにこだわる必要はないんですよ。
Mああ、なるほどね。
A:まあ、それは意図的にやっとるっス。
Mじゃあ、それをわざわざ弐拾六話、というのも何かある。
A:そそ、セルアニメーションからの解放ってのも願ったんだけど、方法論としては、もうちょっとうまくやり、やり方がなかったかなぁ、とも。
Mレイの心の解放と共に、て感じですか。
A:そうそうそう。
Mまあ、にくいじゃありませんか。ああ、そういうことだったんですね。まあ、あのぅ、遅れてだったら、ああいう形にはしなかっただろうし、ていうところよ。皆さん、噂がもしあるならね。
A:間に合わないんだったら、もっと間に合わない方法論もあったで、わざわざ、ああいうふうにしていると。
Mなるほどね。ということです。つづいてですね。これちょっと考えちゃうのよね。えーと、福島県のですね、ペンネーム、スパゲチカルボナーラさん。
「林原さん、庵野さんこんばんは。僕は、庵野監督の『アニメに逃げている奴を、無理矢理現実に帰らせる』と言いましたが、(とまあ、無理矢理という言葉は使わなかったかもしれないが)僕は、アニメに逃げている人を、そのままそっとして置いてあげたほうが良いと思う。それは、現実にかえされて自分の目標とかが見つかった人はいいけれど、もし現実の世界で仕事も出来ない自分の悩みを打ち明ける親友もいないなんてことになったら、もう一生アニメの中に入っていってしまう。だから、自分達で気づくまで、そっとアニメに逃げさせておいてはどうでしょう。」
これべつに、アニメでなくて言えることよね。

A:まあ、そうなんですよね。
Mあの、言いましたね、あのあの、両親かもしれない、母親かも知れない。あの、本かも知れない。なんなら、スポーツかも知れない。何でもいいけど、とりあえず逃げている場所ということなんですけど。
A:そうなんですよ、まあ、自分で気づけばいいんだけど、なんかまあ、つい言っちゃったていうのがあるんだよね。
M私が思うのは、その、無理矢理庵野さんはべつに手を引っ張って、「こっちへ来い!おらおら」ってやっているわけではなくて、その気付くきっかけになりたい作品だったわけじゃないですか。
A:ただね、何かね、何か本当に。
Mうん。
A:手引いているわけじゃないよね。「こうしろ」とかじゃなくて。
Mそそそ、そうなの。そうなの。
A:何かきっかけになればいい。ってやつだね。結びつく関係のちょっとした、何かこう触れ合いのようなものがあれば、それでいいと思うし。そういうものになればいいなと。
Mうーん。
A:ただ、俺みたいになれ。とかって、全然言ってないしね。
M言ってない、言ってない。
A:こうなれ、とかね。
Mうん、全然言ってない。(笑)そうですよ。
A:どっちかというと、なっちゃだめだ。といってるわけですよね。
Mどうだろうか、それは。何とも言わないけども。でも、要するにその、私なんかも、よく自分の曲を、例えば例を挙げれば、「がんばって」という曲があるんですよ。それを聞いて、すごくがんばれたという人もいるし、これ以上何をがんばれっていうの、という気持ちになる人もいるし。でも、それはこちら側から、いろんなボールを投げるけども、受け取るのはあなた達で、感じるのはあなた達。というとこなんですよね。
A:そこに嘘はつかないで欲しいし、なんかね、あのーそれを自分で認める行為っていうのはやって欲しいっスよ。だから、自分に自分で嘘をつき続けると、こりゃ辛いから、ま、それを自覚してればそれでいいっス。ってことっス。
Mじゃ、ちょっとここで、解放のTVサイズヴァージョン・レイ弐拾六話「Fly me to the moon」

--- 曲 ---

Mはい、という感じなんですが、まあ、ぼちぼちお時間も。といった感じですが、私の選んだハガキを一枚。
ほとんど、(今までのは)全部庵野さんに読んでもらって、庵野さんが選んだハガキなんですけど、私が、庵野さんに見せていないハガキ。えー、これ本名OKなんですよ。千葉県松戸市のアオヤナギヨシキ君なんですが、
「どーも今晩は。このあいだの放送を聞いてみて、僕はなぜアニメを必要とするようになったかを考えてみました。小4の時に、よく先生に叱られていた僕は、少しでも叱られまいとするようになり、なぜ怒られたのか。何が悪いのか。を考えるようになりました。また、嫌いな人をすこしでも良く考えようとし、悪いことを悪いと決めつけず、何故そんなことをしたのか、など多くのことを考えるようになりました。そのうち、自分が人に嫌なことや、迷惑をかけることを恐れるようになってしまいました。そのころから、ものすごく緊張したり、心配したりするようになったのです。そんなわけで、だんだん自分を出すのが恐くなり、人と話すことも少なくなりました。しかし、このままではいけないと思っていた時、僕とは全く逆の性格を持つ人に出会ったのです。それがたまたまアニメの主役だったのです。それは僕に自由を教えてくれました。『人生に逆襲されちゃうよ。一度しかない人生だもの。他人に振り回されないで、自分の好きなようなことをやってみろ。etc.』これらの言葉は、今でも僕の支えになっている台詞です。僕は、こういった言葉や、主人公の行動などを見て、自分自身にかけていたプレッシャーに気付きました。だから、僕にとってのアニメは、決して逃げ込む場だけではなく、現実の世界で完璧だけを目指そうとしていた僕。ロボットになりかけていた僕に、じゃあ、君は誰なの。と問いかけてくれるものだったのだと思います。」
というおハガキなんですけどね。どうでしょう。

A:いや、いいと思いますよ。
Mんー。なるほどね。という感じじゃありませんか。あのー、その逃げ込んでることに気付いたりとか、「ああ、これに頼ってる」、「これに、あのー、甘えてる」っていうとこに気付いた時点で、片足や、半分体出てるんですよね。
A:うん。閉塞感から、そこでもう出てるんですよ。ある程度。開かれているんだよね。あとはそこから外に出るかどうか、っていうのは別の問題なんだけど。
Mああ、そうだね。
A:少なくとも、ドアは開いてる、っていうのは確認できるわけでしょう。
Mそうですね。
A:でも、ドアがなかったら何処からでたらいいか、分からないじゃない。そういう状況だけは、出来うる限り、避けておいた方がいいと。
Mそうだね。
A:だから、何処かドアがあれば、そこから出ていくことは可能なんだから、でも、出ていったらねぇ。外は崖かもしんないし。空かもしんないし。すごく気持ちのいいところかも知れないけど、それは、その人が出てみないと分かんないわけでしょ。その出る前に、あれこれ嫌なこと想像して、出ないっていうのは・・・
M絶対あの外は崖なんだ。崖に違いない。と思って、出ないよりも。
A:そう思いこむのだけはやめといた方がいいよ。という。
Mそうだよね。
A:まあ、出てみて酷い目にあうのも、それまたよしなんですよ、人生だからね。
Mうんうん。そうなのよね。
A:それを恐れていたら、何も出来ない。
M崖だったんだけど、痛い痛い、崖崖崖、崖痛い。と思ってドンと崖から降りたら、すんごい気持ちの良いところかも知れないわけよ。
A:そうそう、下にはクッションが広がっているかも知れないし、途中で木の枝があるかも知んない。
Mうんうん。だから、痛いから、恐いから、そこは何か絶対辛いに決まっている。っていうふうに決めて、あの、出ないでいるよりは、ちょっと痛い思いも、みんなみんなするじゃないですか。そんなこと。
A:ねぇ。
Mねぇ。それで、はじめて人の痛いところも分かるわけだし、だからそういうようなことを。
A:まあ、針の穴かもしんないけどね。
Mまた、そんないじめる。(苦笑)「いじめりゅぅ」って感じですね。うん、そんなとこですね。まあ、じゃあラスト一枚です。えー、アイハラサヤちゃんですね。
「えー、この前監督の言っていたことは、私にとっては当たっていたと思う。最近思うのですが、私は、他人に合わせることが当たり前になってきているようなのです。あの人が機嫌を損ねないようにしたり、その人が赤だというものを赤だといったり、それで顔色を気にしつつ心の何処かで、「嫌われたくない」と思っているようです。直した方がいいと思うんだけど、どんどん自分が嫌になる。こういうとき、めぐ姉、監督ならどうしますか。このことで、私も現実から逃げているのかも知れません。お願いします。意見を聞かせて下さい。」
ということですけどね。

A:私もそうなんですけど。結構。
Mああ、そうですか。この監督がそうだって言うんだから、まあまあ、皆さん自信持って下さい。(笑)
A:いや、だって。罵詈雑言のハガキがきて、俺が全然痛くないと思う?っていうやつ、すごく傷ついてますよ。もちろん。
Mあ、んん、庵野監督何事じゃあ。っていうハガキでも傷ついているんですよね。
A:いやぁ、傷ついてます。もちろん。
Mうんうんうん。
A:でも、ねぇ、そういうのは何て言うのかな、まあ、恐れていてもしょうがないんだけどね。でも、そういうのが嫌なのは本当によく分かるでしょう。
Mうんうん。嫌われたくないんですねぇ。
A:うん、でも嫌われたくないと思っていると、誰からも好かれないよ。ということなんだよね。
Mうわぁ、ふっかい、それ。そうだわ。そうだね。

A:こう思っている限りでは、好かれないんですよ。だからなんかね、自分の中にね、何か一ついいものがあるはずだから、それを見つけて、それをアピールするようにしていくのが・・・
Mそれを可愛がってあげる。
A:そうそう、自分のなかで可愛がって、なんか、ああ愛しい。っていう部分が必ず、何かあるはずなんです。
M絶対あるあるある。
A:まあ、それを見つけて、そっからなんか、スタート地点に立つのが、まあ、いいんじゃないかなぁ。という、まあこれが私の人生論なんですけどね。まあ、僕の場合、それがアニメーションだったんですけど。
Mああ、なるほどね。周りにさ、周りからどう見られるか、周り周り周りということよりも、まず自分を探してみるといいですね。
A:万人から愛されるっていうのは、まずないですね。
Mそれはそうですよ。
A: うん。でも、万人から嫌われるってこともないんですよ。
Mああ、いいこと言うじゃない。優しいですね、この人。結構ね。(笑)
A:ああ、人の心が。(笑)
Mなんだか、素敵な・・・
A:ま、そういうことっス。
Mそういうことっス。何か、皆さんちょっと思うところはありましたでしょうか。

---- Ending ----

Mまあ、いかがでしたか、3週に渡ってやってみて。
A:や、楽しかったスよ。
Mあ、そうですか。
A:ええ、また呼んで下さい。
Mええ、お便りの中には、結構、庵野さんはこう「なにクソー、あんだとう、庵野めー」っていうのを結構待っているようだったんですけど、以外に・・・
A:来なかったですね。
M来なかったというより、自己探求をみんなしてましたね。自分の中で。何かをね。
A:いや、良かったと思います。出て。
Mそうですか。
A:ええ。
Mそれはようございました。今後の何か、プラスになるような?
A:泣いた、っていう人までいたのに、少しびっくりしました。
M本当!?
A:このラジオの・・・
Mああ、ありましたねぇ。うんうん。このラジオ聞いて・・・。そんな責任のある立場ですね。べらべら言ってるんですけど。意外なとこで、いろいろ感じて下さるようで。
それでですね、3週出ていただいたプレゼントとしまして、ガイナックスさんのほうから、ま、これエヴァンゲリオンの下敷き。なんですか、これ「緑と水の公園都市を目指して・三鷹市」

A:三鷹市が配った奴ですね。
Mただ?
A:ただ。
M三鷹市の?
A:そう、小学生に配ったんじゃないかな。
Mしかもレイちゃん。桜の前で微笑んでいる。
A:なかなかテレビじゃ、こんな顔はない。
Mないよ。
A:レアなアイテムっス。
Mこれどうしちゃったのよ。これ。売ってないんですか。
A:売ってないっス。
Mおわぁ、すごいですね。それじゃ、これ一応、私と庵野さんのサインを添えてですね。
A:ええ、私のはじゃまかも知れませんが。
M邪魔じゃありませんよ。ええ、3名のかたにプレゼント。すんっげー来るよね、この応募。3名の方にプレゼントしたいと思います。
まあ、25、26の方は、なんだっけ2枚仕様、2枚・・・

A:ええ、両方つきます。
M両方つきます。どんなエンディングか、ぜひぜひ皆さん、そちらのほうも・・・
A:僕も楽しみです。
Mええ、私も楽しみです。皆さんも楽しみにしていて下さい。3週にわたって庵野監督ありがとうございました。
A:ありがとうございました。


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綾瀬ヒロ (H.Ayase)
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