T.B.N.ゲスト出演・庵野監督の言葉全文


『林原めぐみの東京ヴギーナイト』
TBSラジオ[954kHz]・土曜日深夜25:00〜25:30他

96年4月21日放送分

林原めぐみさん(以下M)さて、お待たせいたしやした。皆さんはどうやらちゃんと付いてきているようですねぇ。というのもですね、葉書がどかどかと来ました。どうもありがとう。エヴァンゲリオン監督、庵野秀明監督来ていただきました。
庵野監督(以下A):どうもぅ。
M2週目です。
A:はい、1週間のご無沙汰です。
Mそうです。はは、いやぁ、庵野さんに言われると、なんだか背中がボリボリしちゃいますけど。
A:ひどい。(笑)
Mはは、いろんなですね。いろんなお便り来てました。
A:山のように来たね。
M山のように来ましたね。もちろん、あの、それはどういうこと。とか、悩んでるのもあれば、なんじゃそりゃ。ってのもあれば。なんですけれども、まずは軽く軽くお便りです。
 埼玉県女の子ね。ペンネーム・オンセンペンギンさん。これは、もしかしたらこの番組を聞いている人は思っていてくれているかもしれません。
 1.レイ役にめぐ姉を選んだのはなぜ?
 2.めぐ姉に『Fly me to the moon』をたくさん歌わせたのはなぜ?
 3.めぐ姉、緒方ちゃん、琴ちゃわん、みやむー、一番の大酒飲みは誰?
 ということで、なもんですね。

A:んん。
M頂きました。するっと、じゃあ、なんでしょう。なぜでしょう。
A:えっとですね、林原さんをレイにお選んだのは、昔、あの、林原さんが出ていた、まあ、某OVAがありまして、それをたまたま見たんですよ。それでね、すごく暗い女の子の役をやってて、それがすごく板についてて、よかったんですよ。そのとき背筋に、ここ、ピピッとくるものがありまして。
Mああ、腰椎に……
A:そう。こいで行こうと。
Mああ
A:まあ、林原さんでレイっていうのは企画の当初から考えていたんすよ。
Mああ、そうですか。
A:最初っからそうだったんですよ。イメージ的にもそれで決め込んで作ってたんですね。
Mああ、1月にはクリスマス、なんていうやつで……
A:そうそう。
Mそれでね、実はそれ、岡崎律子さんていう方が歌うたってらっしゃっていたんですけど、岡崎さんとの出会いのビデオでもあるんですけど。ああ、そうなんですか。
A:そうなんすよ。
Mあれねぇ。
A:あれ、よかったんですよ。
Mあれ…
A:ビデオ自体は、まあ、評価おいといて……
Mあらあら
A:林原さんはよかった。
Mそんなこと言わないでくださいよ。ねぇねぇ。そんなこといわないで。あの、私のなかでもあれは印象の強い役でした。割と元気、明るい、うっひゃっひゃ系の多いなかで、レイといい、その彼女といい、まあね、そういう淡々とした役もやらせてもらってよかったなと。あと、Fly me to the moon。
A:はい。
Mなんででしょうかね。結構歌いましたね。私ね。
A:歌がうまいからですよ。
Mあ、また、そうやってもちゃげて、どうしようっていうんですか。
A:いやいや、事実ですからね。
Mいやいや。でもね、庵野さんの監督のね、あのディレクションは時々かっとんでて面白いんですよ。あの、普通ね、歌のディレクション、大月さんもそうなんですけど、あの、心情的な部分をすごく言ってくれるディレクターさんってのは少ないんですよ。例えば、「ミ」の音が当たってない。とか、「レ」の音が当たってない。ここもうちょっと、あの、ちょっと音がシャープしてる。とか言うんだけども、あの『すいません。死んで嬉しいっていう感じで歌ってください。』っていうんですよ。
A:そんな可笑しいかなぁ。
M可笑しいよ。(笑)
A:ああ、そう。(笑)
Mそれから、あとなんでしたっけ、あの、『まるで無表情に猫を殺すような気持ちで歌ってください。』とか。
A:ははは、そんなん言ったっけ。(笑)
M言いましたよ。あの、じゃあ……
A:馬鹿だね、俺。(笑)
Mじゃあ、いってみましょう。とか言うんですけど、いや、いってみましょう。じゃなくて、あの時間ください。みたいな。そういう感じでした。でも、それはそれとして。あの、いろんな気持ちで、あの歌っていうのって結局メロディーじゃないですか。
A:ええ。
Mそこに、その、感情を乗せるっていう作業が、それなりにすごく楽しく私はやらせていただいたんですが。
A:まあ、ジャズ、ボサノバだからね。音の当たりはずれなんて、そんなに関係ないですからね。
Mそうですね。
A:気持ちのほうが重要なんす。
Mええ、それ、おもちろいお仕事でちた。そして、大酒飲みは誰?という。
A:めぐみさんじゃ……
Mええ、どうしてぇ?
A:林原さんですよね。
Mそうですか。ほんとに。
A:次が、ん、たぶん緒方で、次が三石さんで、まあ最後が…宮村、確か酒だめなんだよね。
Mえ、いえいえ、飲むってみやむーは。飲むんだけど、体調によってとか、次の日があるとか……
A:なんか、あんま飲めないですよね。
M琴ちゃわんはあんま飲まないね。一杯でく〜っと赤くなっちゃう。
A:そそそ。
M緒方っちゃんは量は飲むけど、顔が変わってくるから、顔つきっていうか、赤くなってくるから、酔っ払っているのが分かるんですけど。
A:絡んでくるんだ。これが。
Mこういうこと言わないでください。ラジオでね。へへ。庵野監督、この次の話しはどうなるんですか。シンジ君は幸せになるんですか。とかいってずっと、なんかね、私たちに救いを。救いを。って怒っていましたよね。緒方ちゃんね。
A:ねぇ、何度も怒られたっす。
Mねぇ、シンジ君はどうなるんですか。シンジ君の気持ちになって怒ってましたよね。
A:そう。
Mわたしね、飲んでもね、色が変わんないんですよ。
A:かわんないですね。
M顔のね。ええ。だから強いと思われるんですけど、そんなことはないですよ。
A:あ、そう?
Mええ、そんなことはないです。
A:観察眼が足りなかったかなぁ。
Mそうですよぉ。そういうことにしておこう。じゃ、ここでですねぇ、曲をかけつつ、また重めな質問もしたいで〜す。5月22日発売『Neon Genesis Evangelion III』から高橋陽子さん「無限抱擁」

* 曲 *

Mちょっと、重めなお便りになりますねぇ。千葉県ペンネーム・エヴァノLDヲカオウトオモイマスさん。たくさんお便りくれました。
 『庵野さんに質問。アニメに逃げ込んでいるわけではなく、現実に帰れ。という一言。あれはどういう意味だったのでしょうか。現実に立ち返るというのは世間を知るということなのでしょうか。自分にもわかるように、かみ砕いて説明してください。』
 ということで頂きましたねぇ。先週ね、ズバっとね、君達は現実に帰れ。というようなことをおっしゃいましたが、どういうことでしょうか。ということですね。

A:もうちょっと、まあ、いってしまうとですね、なんていうのかな、あれ、自分の世界の狭さを知れ。ということなんですよね。
Mうんうんうん
A:まあ、アニメにこれで、自分は逃げているんだ。と気が付いている人はまだオッケイなんですよ。
Mんん、そうですね。
A:それも分からずに、ただそこに逃げ込んでて、まあ、俺は自分のアニメーションというのがただの避難壕になるのが嫌だったのね。
Mんん。
A:そこにいって、現実に戻る力みたいなものがそこにあって、そこから、またじゃあ現実世界に帰ろうか、という気になるものがあればよかったんだけど。なんかねぇ、なんていうのかなぁ、まあ、アルコール依存症みたいに、なんかこう、そこが気持ちよすぎたので、そこから抜け出せなくなっている人が、なんか周りに増えていたんですよ。それが嫌で、とにかく水かぶせて目覚まして、なんかこう、現実に戻れ。ってことだったんですよね。
Mああ。
A:つまり、なんていうのかなぁ、自分の物差しの小ささを知るには、他人の物差しと当てて見ないと自分が、こんなに、もってる物差しが小さいんだ。おまけに、その物差しの1センチと思っているものが、他人の1センチと間隔が違うっていう、このズレ、ギャップっていうのが、実際に他の世界を見てみないと、理解できないんだよね。
Mそうだね。
A:まあ、そこのことなんすよ。まあ、アニメばっか見ていてもダメだと。
Mそうですねぇ。
A:これはもう、これは純粋なアニメファンでも、20年以上アニメファンやってて、それで行き着いて、監督というところまで、ある程度、自分でアニメを作るところまで行き着いた人間がいうんだから、まず、まあ間違いないっす。
Mまあ、説得力があると。
A:だから言えるんだよ。
Mああ。
A:ここが出来ているから、俺は言えるんだよ。
Mんん。なるほど。
A:だから、これを、全然アニメーションを知らない人が言ったら、馬鹿じゃんおまえ。って俺だって言うよ。
Mあははは。
A:俺が言っているんだから、聞いてくれって言っているんだよ。
Mあははは。
A:そこわかってくれよ。もう。
Mなんか声裏返ってますけど。
A:ねぇ。
Mねぇ、アニメーション愛しているからこそ言える、愛してきたからこそ言えるという……
A:あるいは、自分に言ってる言葉でもあるんだよね。
Mんん、なるほどねぇ。
A:もちろんそうっすよ。
Mんん、よくこの番組でも、時々言うことでもあるんですけど、もし、私の言葉でそれを言うとしたらなんだけど、『現実って、じゃあ何?』っていう気持ちになるんだけど、現実というのは、やはりその今自分の身の回りの状況だと思うのね。身の回りの人だと思うんですよ。で、例えば親でもいい、先生でもいい、あの、人のせいにしちゃうっていうのが結構、ほら、こいつがこうだから。とか、親がこうだから。って、人のせいにしちゃうと、少し、なんかこう辛いんだけど、どっか楽だと思うのね。
A:楽だよね。
Mでも、それを、分かってくれないじゃなくて、分からせるにはどうしたらいいんだろう。っていうふうに、みんな分かってくれないじゃなくて、一人でも二人でも分かってくれる人を増やすためには、じゃあ、どうしたらいいんだろう。ていうことを考えていくと、一個プツンって階段が、そんときに上れると、トントントン……って行けたりすることがある。
A:そう、とにかく自分の部屋から外に出よう。
Mそうですねぇ。
A:自分の部屋にこもっててパソコン通信やってると、危ないっすよ。
Mんん、危ないですかねぇ。でも、例えば、その中にいる人達にそういったことを言ってみたときに、『なぜ』って言われたときに、『なぜここに居ちゃいけないんだい』っていわれたとき、どうしよう。って気持ちにもなるんですけどねぇ。わたし。
A:んん。ああ、全員でするわけじゃないですよ。こないだのやつも、アニメを一切見るなってわけじゃなくて。
Mもちろん。当然。それはそう。
A:アニメだけにすがるな。って言っているのね。
Mんん。
A:他のこともやってみたら。
Mんん。そうすると、もっと新しいものだったり、いいものだったり、全然違う幸せな感覚だったり。
A:アニメだけが世の中で幸せを与えてくれるものじゃないだよね。
Mんん、んん、んん。なるほどね。ということです。少しは分かって頂けたでしょうか。
A:私も最近分かりました。
Mああ、そうですか。そういう方もいるんです。安心して、ゆっくり分かってください。
A:30過ぎでやっと分かった馬鹿もいますから。
M自分で馬鹿って言わないでください。
A:俺は馬鹿だよ。
Mんまあ、でも、あんだけの作品を作っているんですから、まだ皆さんまだ……
A:だから馬鹿だよね。
Mあああ、痛い、痛い、痛い。もう一週ありますから、ちゃんとついて来てね。庵野監督、どうもありがとうございました。
A:どもどもでした。


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綾瀬ヒロ (H.Ayase)
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